MR編
百四十七話 それでも尚、望むもの
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わけだ。そう考えると、なんとも自分が滑稽でサチは自嘲気味に小さく笑って、本気で緊張した様相の少年に微笑み返した。
「……それも、いいかもね」
「ッ……」
その瞬間に起きたキリトの顔をどう表現したものか、どう自分を説得しようと考えている顔と、疑問の表情が入り混じったようなその顔に、サチは少しだけ楽しくなったが、その感情は泡のように一瞬で弾けて消える。
「……ううん、ごめん、嘘。死ぬ勇気があるなら、こんな圏内に隠れてたりしないよね……」
「…………」
再び黙り込んだ自分に、律儀に付き合うようにキリトが脇に腰を下ろす。再び数分の間沈黙してから、サチは殆ど無意識のうちに、静かに溜まっていた水が杯から溢れるような、損な調子で自分の今の事情を語り始めた。
死ぬ事がとても怖い事。
以前からその恐怖で不眠症になり易く、ここ数カ月はきっかけ(あえて、リョウの名前は伏せた)が有り落ち着いていたものの、最近またしても、しかも今度は完全に眠れなくなった事。
そして、キリトに問うた。何故こんな事になったのか、何故ゲームから出られないのか、何故ゲームで本当に死ななければならないのか、こんな事をした張本人に、一体どんな得が有ると言うのか、そもそもこんな事に……何か意味が有るのか。
全てを語ってから、サチは自分の軽率な行いを深く後悔した。ずっと胸の内に誰にも言わずにこの恐怖を隠し続けてきたのは、それを打ち明けることが、周囲の人々の期待や思いやりを裏切ることになると感じていたからだ。
ケイタも、目の前にいるキリトも、本質的には優しい人間だという事をサチは間違いなく知っている。
ケイタは自分の恐怖に気が付いてはくれなかったが、それでも自分が臆病であることは知っている。その上で、わざわざ彼が足手まといになりかねない自分を宥めすかしてこの前線へ連れてきてくれたのは、一重に少しでもサチに、そして黒猫団のメンバーにこの世界でマシな生活をしてほしかったからであり、集団からドロップアウトすることで心細い思いや辛い思いをさせないためだ。
キリトもまた、途中加入でありながら自分達のことを守る為にとても尽力してくれている、盾に転向しようとする自分に対する指導もとても熱心だが、サチの臆病さを察してか、強要だけは決してしなかった。
そんな優しい人達の期待や思いやりを裏切ってしまうことはサチにとっては心苦しい……いや、あるいはそれすら醜い言い訳に過ぎないかもしれない。自分は結局の所、どっちつかずなのだ。自分が死ぬのは怖いくせに、それを避けたために自分の居場所がなくなるのも怖くて怖くてたまらない、誰との繋がりも持てなくなることは、この過酷な世界ではあまりにも怖い。
全てが怖い。人から離れることも、自分から全てを捨てて死ぬことも、やがて来る死と対峙することも
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