MR編
百四十七話 それでも尚、望むもの
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る。開いた右手を赤ん坊のように伸ばして、相変わらず泣きそうな声で、ユウキはその名を紡いだ。
「……アスナ……」
「〜〜っ、ユウキッ!」
サチを巻き込みながら抱き合った二人は、無意識のうちに額を合わせる。
「ゴメン、ボク、嘘ついた……アスナに出会わなければよかったなんて、全然思えない……!何回やり直せるとしても、またアスナに、出会いたい……!」
「うん……!私もそうだよ……何度やり直せたとしても、またユウキと出会いたいよ……!」
そう口に出した瞬間に、アスナは、自分の答えにたどり着いた気がした。自分がユウキと、どう向き合いたいのか、その答えが、ふっと浮かんだのだ
ようやく泣き出しそうなユウキが落ち着いてから離れた三人の中でアスナは両手をぐっと握って、虚空に向かってうなづいた。
「……うん、そうだよ、私は……」
「アスナ……?」
何か強い意志を感じさせる声で言葉を紡ぎだす彼女に、ユウキが疑問の声を上げる。しかしサチは逆に安心したように微笑み、アスナと笑い合った。
「……ありがとう、サチ……ごめんね、辛い話させちゃった……」
「ううん。もっと早く話せてたら、こうはならなかったはずだから……私が弱いせい。ごめんなさい」
申し訳なさそうに、言ったサチはしかし、次の瞬間アスナを見て、小さく笑った。
「でももう、大丈夫だよね?」
「うん!明日、ちゃんとリョウに話すことにする。でもその前に……」
微笑み返したアスナは、キッチンの方を見て、小さく笑った。
「そろそろ大急ぎで、準備しないとね?」
「うんっ!」
「あ……ボ、ボクも!」
息ぴったりに作業に取り掛かる二人を前に、慌てたようにユウキが続く。そんな様子をほほえましく見ながら、胸中でアスナは小さく呟く。
『それでも、私は……!』
────
「そう言えば、サチ、その頃からなの?」
「えっ?」
菓子を作る傍ら、ユウキに水アイテムを近くの補給用井戸にとりに行ってもらっていた時、ふいにアスナが、そんな問いを投げてきた。
「その、リョウと暮らし始めたの」
「あぁ……うん、そうなるのかな。ただ……」
「?」
ふと、再びサチは過去に想いを巡らせる。たしか、あの直後……
────
2023年 6月29日
「そういやよ、サチ」
「え?」
そうリョウが切り出したのは、リョウに泣きついた日の深夜だった。
「お前、今日誕生日だろ」
「えっ!?」
気が付くと、午前0時を回っていた。確かに、今日6月29日は、美幸の誕生日だ。他の事にばかり目が行って、全く気が付いていなかった。しかし……
「覚えてて、くれたの……?」
「おう、まぁな……まぁ、あれだ。17歳な、おめでとさん」
「あ、ありがとう……」
あんな事が
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