暁 〜小説投稿サイト〜
SAO─戦士達の物語
MR編
百四十七話 それでも尚、望むもの
[2/16]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
んな考えが頭の奥にちらりと顔を出したが、それ以上に今は仲間たちの前に居たくなかった。背中を壁にこすりつけるように、ズルズルと腰を下ろす。天井と水路の奥に繋がる暗闇が怖くなって、抱えた膝に向けて顔を伏せた。水路の小さな水音が、やけに大きな音になって響く。体はここ数日のほとんど不眠の状態の所為で疲れ切っている筈なのに、恐怖が先行していくら顔を伏せても意識は落ちなかった。
自分でも、何がしたいのかまるで分からない、逃げ出したいのかもしれなかったが、そうした後に友人たちに与えるであろう失望とその表情を思い浮かべると、それを実行する勇気もわいてこない。かといってすべてを捨てて死ぬことが出来るかと言えば、そうすることも怖くて出来ない。前に進もうにも、進むためにはやがて来る死に立ち向かう意志が必要で、それがあるならこんなに悩んでいないだろう。
死にたくはない、けれど最早何のためにどうやって生きればいいのか、サチには分からなくなっていた。

「……サチ」
「…………ッ」
その声を聞いた瞬間にサチの胸に去来した驚きに、一抹の期待と自己嫌悪が混じったのは、その声が期待した人物の声ではなかったからであり、同時に、そんな期待を抱いていたあまりにも身勝手で浅ましい自分を自覚したからである。

「キリト……どうしてこんな所……」
「……カン、かな」
受け売りだけど、と言って苦笑するキリトに、なるほど、どうやら彼は確かにあの青年の身内のようだと、妙な安心感を覚えてサチは力なく笑って、再び顔を伏せる。

「……みんな心配してるよ、迷宮区に探しに行ったんだ。早く戻ろう」
「…………」
分かっている、戻らなければならないことも、自分を彼らが捜しているだろうことも分かっていた。どの道他に行く場所があるわけでもないのだ。やがては自分はあそこに戻るしかない。戻って、また外に踏み出すしかないのだ……その未来に対する不安が頭の中でぐるぐると回り、無意識のうちに口を開いていた。

「キリト、一緒にどっか逃げよ」
「……?逃げるって、何から?」
「この街から、黒猫団のみんなから、モンスターから……SAOから」
口に出して、自分が何故ここに居るのかが何となくわかったような気がした。自分は今逃げ出したいのだ。何もかも、全てが怖いから、それらから逃げ出したい。それが自分に今ある望みの全てであり、唯一逃げられる者から意識しないままに逃げ出しただけ。しかしそんなただの臆病に、目の前の少年はどこか緊張したように聞き返した。

「それは……心中、ってこと?」
「……ふふっ」
あぁ……そう言われてみれば、今の発言はそう言う意味にとられても仕方ないのかと、まるで他人事のようにサチは内心苦笑する。リョウとの関係からして、おそらく年下だろう少年に、自分はまるで昼ドラのような要求をした
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ