MR編
百四十七話 それでも尚、望むもの
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其れから凡そ半月の間の美幸は、少しだけよく眠れるようになっていた。多くを求めることが出来なくても、自分が誰より信頼する人が同じ世界に居ること、時々キリトの様子を見に尋ねてきてくれる事から生まれる安心感が、一時、彼女から死に対する恐怖を少しだけ遠ざけてくれていたからだ。
ただ、果たしてそれが長続きしたかと言えばそうではなく、あくまでもそれはほんのわずかな期間だけ彼女の胸の中を温めてくれた蝋燭のようなものだ。寧ろその蝋燭の火が消えてしまってからは、より一層に恐怖という寒さが逃げ場もないままの彼女の身体を痛めつけた。
日に日に強くなる死への恐怖が限界を迎えたのは、5月のとある日だった。
初めに集合していた他校のPC部の安全域での狩りに徹していたメンバーの中にいた中学時代の同級生、彼女が単独で採集をしていた時にたまたまモンスターの縄張りに踏み込み、多数のモンスターに襲われ「死亡した」という知らせが届いたのだ。
自分でも浅ましいと思うが、その知らせを聞いた時、サチの胸に強い衝撃を残したのは、「顔見知りが死んだ」という事実よりも「低層粋に居ても死んだ」という事実だった。自分よりも下の層に居て、自分よりも圧倒的に死のリスクが低い場所に居た人間ですら、本の些細なミスが原因で死んでしまった。
『駄目なんだ』
サチはその事実を受け止めた瞬間に、唐突に理解した。
何度か話したことがあるので知っている。死んだ彼女は自分と同じくらいに臆病な人間だった。だからこそ彼女は低層域に居たのだ。自分と同じように死ぬことが怖いから、その身を守るために低層に居たのだ。なのに、死んだ。つまりはどんなにあがいても、もがいても、きっとやがて、自分達は必ず死に追いつかれるのだ。逃走は其処に至るまでの時間を延ばすだけで、結局の所は無意味。本当に必要なのは逃げることではなく、その自分に追いついてくる死と対峙し、打ち破る意志であり強さなのだ。ならば自分にそれを得られるか?
『そんなの……無理だよ……』
つまり自分は、やがて来るであろうその日までおびえ続け、そしてその時が来れば、何の意味も残すことなく、ただ死ぬのだ。逃げ場はない。これは美幸が美幸であるために起こる、きっと確定した未来だ。
『なんで……』
どうして、こんな事になってしまったのか。いくら考えても分からなかった。ただ、突きつけられた未来に全身が震え、睡眠は完全に取れなくなった、その事実を黒猫団のメンバーから隠そうと距離を置こうとするうちに、サチはギルドの拠点である宿から逃げ出していた。
────
2023年5月17日 麻野美幸 16歳
「(疲れた……)」
気が付くと、サチの脚は主街区の外れにある用水路に向いていた。こんな場所にきてどうしようというのか。そ
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