119部分:第十一話 武蔵の力その四
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第十一話 武蔵の力その四
「この俺ですらな」
「忍ではないか」
「間違いない。そしてその十字の剣」
彼が次に注目したのはそこだった。
「それだな。この二つを中心に調べていこう」
「忍以外をか」
「そうだ。忍以外ならそれはそれで調べることも容易だ」
扇で顔の下半分を隠しつつ述べた言葉である。
「頼むぞ。俺もやらせてもらう」
「うむ、わかった」
「それではな」
「行くぞ」
陽炎も同志達も姿を消した。彼等が姿を消したその後には気配一つ残ってはいなかった。陽炎もまた何かを掴もうとしていたのであった。
「申し訳ありませんが」
武蔵は病院の白く暗い廊下で医者からの話を聞いていた。二人向かい合って立って話をしている。
「絵里奈ちゃんは冬までにな」
「馬鹿な・・・・・・」
武蔵は医者からその言葉を聞いて呆然としていた。
「そんな、絵里奈が」
「私達も最善を尽くしました」
医者は俯いて述べた。
「ですが。今の医学では」
「わかっています」
武蔵もまた俯いていた。激昂しそうになる感情を必死に抑えている言葉だった。見れば拳を握ってそれが白くなり震えてさえいた。
「それは。もう最初から」
「それまではこれまで通り最善を尽くしていきます」
医者はまた武蔵に対して述べた。
「若しかしたら。それで」
「最後の希望・・・・・・ですか」
「それだけは決して捨てないで下さい」
武蔵に対する言葉だった。
「何があっても」
「わかりました。それでは」
武蔵は踵を返そうとする。その彼に対して医者が声をかけてきた。
「妹さんのところにですね」
「はい」
既に背を向けている。そのうえで答えたのだった。
「見舞いに行って来ます」
「御願いします。絵里奈ちゃんには貴方が必要ですから」
「・・・・・・わかっています」
医者に対して答えるとそのまま廊下を歩いていくのだった。彼はそのままある病室に向かう。その病室では絵里奈が枕元にある小さな時計を見ていた。
「看護婦さん、この時計」
「あっ、止まってるわね」
「また止まったのね」
側で花瓶を替えていた看護婦に対して絵里奈は言った。
「最近よく止まるの、この時計」
「壊れてるからね、もう」
「そうなんだ。お兄ちゃんがくれた時計」
声に幾らかの親しみがあった。しかしそれと共に何処か寂しさもあった。
「もう壊れるんだ」
「絵里奈」
その時だった。武蔵が部屋に来たのだった。
「お兄ちゃん」
「元気にしていたか?」
「うん」
にこりと笑って兄に応えるのだった。
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