第7章 聖戦
第165話 虐殺の夜
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上空に投げ出されるトリステインの兵たち。
遙か上空に光る二つの赤い星。これはまるで地上を見下ろす巨人の瞳のように妖しく光り……。
こいつは多分……。
「……風に乗りて歩む者イタクァ」
僅かな畏れを纏い、我知らず口に出して呟いて仕舞う俺。
その言葉を聞いた瞬間、腰を浮かしかけていた崇拝される者の動きが止まる。
そして、
「翌朝、戦場となった辺りの地上には奇妙な死体が数多く発見された」
それはかなりの高所から投げ出されたかのような死体。その無残な身体の表面は堅く凍り付きながらも――
現実の世界でイザベラの声を聴きながら、精神は有希の送り込んで来る映像の世界を彷徨する俺。
その世界に響く不気味な蝙蝠の羽根音と、キーキーと言う金切り声。そして、その声に勝るとも劣らない断末魔の悲鳴たち。
そう、その時には既に無傷の船は存在していなかった。すべての船に襲いかかる雲霞の如き黒い異形たち。イタクァが現われたのなら、同じゴアルスハウゼンの村で起きたクトゥグア召喚事件で大量に召喚され、何処かに逃げ去って仕舞った一群のバイアキーが現われない訳はない。
「――何故か、身体の各部分の欠損が目立ったそうだよ」
まるで何モノかに喰い散らかされたかのようにね。
イザベラの説明を遠くに聞きながら、瞳……脳裏には、その身体の各部が欠損した死体が何故、大量に地上に降って来ていたのか。その理由となる現象が展開していた。
次々と巨大な不可視の拳……絶対零度の拳を叩きつけられ、あっさりと粉々にされる戦列艦。このハルケギニア世界の飛空船は未だ木造船。確かに固定化や強化の魔法で防御力がアップしているのは間違いないが、それでも無敵と言えるような防御力などではない。
不可視の腕……間違いなく、ある程度以上の見鬼の能力を持たぬ者には見える事のない巨大な拳の一撃に因り、空中に放り出された兵たち。
そして、その無防備な姿に襲いかかるバイアキー。
その状況は正に阿鼻叫喚。いや、むしろ現状は無数のサメの群れの中に傷付いた……血を流す餌を大量に放り込んだ彼のような状態。所謂、狂乱索餌と言う状況が近いかも知れない。
そう、地上だけでなく、この氷空で繰り広げられた光景も、戦いなどではなく一方的な虐殺。
散発的に魔法やマスケット銃らしい攻撃が行われているが、相手は宇宙を光速の十分の一の速度で飛ぶ事の出来る生命体。確かに、一口に宇宙と言っても全てが苛酷な環境と言う訳ではないが、それでも近くに太陽のような恒星のない辺りの温度はマイナス二百七十度ほどだったと思う。そのような苛酷な環境の中で平気で生きて行ける生命体に対して、魔法は未だしも、この世界のマスケット銃では傷ひとつ付けられる訳はない。
惑
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