第7章 聖戦
第165話 虐殺の夜
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「な、何をしているのよ!」
崇拝される者の少し驚いたような声が響くのと、俺と湖の乙女の額が触れ合うのとではどちらの方がより早かったのか、その辺りは定かではない。しかし、その声が聞こえるのとほぼ同時に額同士が触れあった感覚。そして、向こうの世界の長門有希と同じ香りを強く感じた――
その刹那、脳裏に浮かぶ異様な景色。
暗く冷たい氷空。黒く沈む山の稜線。
微かに舞い散るは風花か。小さき欠片がキラキラと月の光輝を反射する。
ここは一体……。
かなり高い位置から僅かに視線を動かす俺。その先に現われたのは……。
石と煉瓦。それに太い鉄骨により造り出された港。しかし、ここに千里の彼方より打ち寄せる波が創り出す悠久の調が聞こえて来る事はない。
代わりに――
代わりに遠くより聞こえて来る――多くの足音。
ザシュ、ザシュ、ザシュ。仄暗き闇の中、規則正しく響く、まるで単一の楽器により奏でられる音楽の如きその足音。
これは――
これはおそらく大軍が接近している気配。しかし、その音が響く方向に視線を向けるが、其処からは一切の人工の明かりを見つける事は出来ず、更に言うと何故か生命の気配を感じる事すら出来はしなかった。
そして、濃密な霧に包まれた港に係留された船。
そう、本来なら現在は深い眠りに沈み、所々に灯された魔法に因る明かりと、まるで巨大な生物を連想させるアルビオン名物の濃霧だけがゆっくり、ゆっくりと辺りを徘徊する時間。
月と星、そして夜の子供たちが世界を統べる時間帯。
しかし――
しかし、本来は静寂に沈むべき時間帯にその船……飛空船に向け我先にと殺到する兵士たち。何かに追い立てられるように、その顔には焦りと、隠しきれない畏れの色が浮かぶ。
霧をかき分け、同僚を蹴散らし、一歩でも先へと進もうとする兵士たち。
しかし、無情にもすべての兵を乗せる事もなく出港する最後の船。桟橋との間に掛けられたタラップごと氷空に投げ出され、暗い氷空の下へと墜ちて行く兵、兵、兵。
この情景は一体何を意味するのか――
そう考える俺。その瞬間、それまで気配だけを感じさせていた敵軍が終に港へと侵入を果たした。
その姿は正に異形。人間としては巨大過ぎる身体。鍛え上げられた分厚い胸板に太い腕。見事に割れた腹筋と僅かに腰の周りにのみ白い布を巻き付けただけの姿。丁度、古代エジプト人のような衣装と言えば想像出来やすいかも知れない。そして継ぎ接ぎだらけの皮膚。虚ろな……何も見つめていないかのような黄色く濁った瞳。
こいつ等の発して居る気配には覚えがある。これは間違いなく不死者。
ベレイトの街で起きたUMA事件の際に現われた蛇たちの父イグが造り出
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