107部分:第十話 小次郎と姫子その五
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いて閉口する他ない蘭子であった。
「何をしているんだ、私は」
自分で自分がわからなくなり呆然となる。その時だった。
「おい蘭子」
「その声は小次郎か」
「ああ、入っていいか?」
障子の向こうから断りを入れる。用心の為だ。
「入っていいんならよ」
「ああ、いいぞ」
蘭子は顔を正面に向けたまま答える。すると障子がすうっと開いて小次郎がそこから顔を出してきた。小次郎はそのうえで彼女に声をかけてきた。
「聞きたいことがあるんだけれどよ」
「聞きたいこと?」
「ああ。デートのことだけれどよ」
「デート!?」
蘭子はデートと聞いて机の上で不意に取り乱した様子になった。長い髪が乱れる。
「それは男女逢引のことか」
「また随分と古い表現だな、おい」
「そうか?だが」
「まあそこまではいかなくてな」
小次郎は一旦はそれは否定した。
「ファーストデートってやつなんだよ」
「そうか。それなら・・・・・・」
答えようとしたところで。何故か言葉が出ない蘭子だった。
「どうしたらいいものかな」
「わからねえか」
「あっ、いや」
何故かまた取り乱す蘭子であった。やはり様子がおかしかった。
「何でもない。気にするな」
「そうかよ」
「とにかくデートだよな」
「ああ」
蘭子は何とか話を小次郎に合わせる。小次郎もまたそれを聞く。
「はじめてか」
「そうだよ。御前デートとかの経験は?」
「ない」
実はそうした経験は皆無の蘭子であった。顔を小次郎に向けての言葉である。
「やっぱないのかよ」
「私は姫様といつも一緒だったからな。そうした経験はな」
「まさか御前」
「言っておくが同性愛者でもないからな」
それはもう蘭子の方から否定してきた。
「姫様と私はあくまでだな」
「それはわかってるさ。しかし経験ないんならよ」
「だが。御前を出していけばいいだろう」
「俺をか」
「そうだ。御前は隠し事や小細工は駄目だ」
小次郎の性格を見ての言葉である。だからいささか戦めいた感じになっていた。
「それなら思いきり行け。自分自身を出せ」
「やっぱりそれかよ」
「そうだ。御前は御前で行け。いいな」
「わかったぜ。絵里奈にも言われたしな」
「絵里奈!?」
「あっ、いや」
今のは小次郎の失言だった。それで言葉をすぐに引っ込めた。
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