第三話 本土からの使者
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雨以外で初めてだったからだ。
凰香が何も言わずに固まっていると、海原少将が首を傾げながら言った。
「む?どうかしたか?」
「い、いえ。………それよりも聞きたいことがあるんだけど、なんで私が『黒夢凰香』だってわかったんですか?」
凰香は海原少将に聞いた。
凰香は海原少将に一言も自分の名前を言ってはいないし、鎮守府の門や玄関に表札を掛けてもいない。それにもかかわらず、海原少将は凰香の名前を知っていたのだ。
すると海原少将が言った。
「………あの愚か者が更迭された日、あの鎮守府で行われていた多くの不正が判明してな、その時に君達の乗った船を誤って砲撃したことも判明したのだ。佐世保第十三鎮守府は私が担当することになってな、すぐに捜索隊を派遣し、そして五人分の遺体が発見された。その時にその遺体が先輩達だと知ったのだよ。
「だがどうしても君の右腕以外の遺体だけが見つからなかった。ほとんどの者は君も死んだと言っていたが、私は君も死んだとは思えなかった。そこで私は奇襲作戦が行われた日の風速、風向、潮の干満などを計算し、君がこの旧泊地に流れ着いたと仮定した。そして私の予想は的中したというわけだ」
「……なるほど、そういうことだったんですね」
海原少将の言葉を聞いた凰香は納得した。
海原少将は凰香が生きているということを前提として動いた。だから凰香を見つけることができたのだ。
(ほとんどの人が私を捜そうともしなかったのに、この人は最後まで捜してくれたんだ………)
凰香がそう思っていると、不意に海原少将が凰香を抱え、膝の上に乗せてきた。
「わっ。……いきなりどうしたんですか?」
凰香は驚いたような声をあげたあと、後ろを向いて海原少将に聞いた。すると海原少将が不思議そうに首を傾げながら言った。
「何って、昔みたいに君を抱きかかえただけだが?」
「はあ、そうですか………」
海原少将の言葉を聞いた凰香はそう言った。とはいえ、凰香は幼い頃のことはほとんど覚えていない。そのため海原少将の言葉を聞いても凰香はそこまで何も思わなかった。
「そんな直立不動でなくとも、私にもたれかかってもいいのだぞ」
海原少将がそう言って凰香を抱き寄せてくる。そのため凰香の背中に二つの柔らかいものが当たるが、凰香にはそれが懐かしく感じられた。
凰香は海原少将に抱き寄せられたまま夜空を眺めるが、不意に海原少将に聞いた。
「……あの、提督だった頃の父さんってどんな人だったんですか?」
凰香は幼かったために父親のことをあまり覚えていない。そもそも凰香は父親が提督だったことすら知らなかった。そのため、凰香は提督だった頃の父親を知りたいと思ったのだ。
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