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殺人鬼inIS学園
第二十一話:敗走
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界が崩れ、皮が剥がれるように真実が映し出された。眼前には弱りきったクロエ・クロニクルが震えていた。

「鼻を凝固した血液で塞いでしまえば簡単に防げてしまう。いや、全くの偶然だった。鼻をへし折られてなければ、腹立たしいことに嬲り殺されていただろう。だが、それも終わりだ」

 ラシャの眼が光る。その瞳は憎悪に燃えていた。彼と『それ』は、クロエ・クロニクルを通してまるで別のものを見ていた。彼女の怯えきった表情の向こう側に確かに見えたのだ。自らを凌駕する狂気に満ちた傲岸不遜な兎の姿が。

「聞こえているか?篠ノ之束。お前の可愛い『被験体』はもうすぐ死ぬ。ドイツ政府がこいつらの先達共にしてきたように、徹底的に痛めつけた後に豚の餌にしてやる。お前の前座だ、この子も誇りに思うだろう」

 ラシャの手にはクロエが持っていた仕込み杖が握られていた。護身程度の重量と強度しかない細身の刃が処刑人の振るう処刑斧の様な無慈悲な輝きを放っていた。剣が振り上げられる。

─キアアアアアアアアアァァァァァァ!!─

 その時、絹を裂くような悲鳴に似た異音が、暴風と共に森を駆け抜けた。ラシャが何事かと振り返った先には、銀色の天使が居た。
 正確には天使というより、北欧神話の戦乙女の様な武人然とし、尖った装飾を纏っていた。大凡死者を悼み、恋愛を成就する様な事を使命とする手合ではない事だけは理解できた。

「何なんだこいつは!?ISか!?」

 ラシャは基本的にISと言うものに興味を持ったことはない。とはいえ、ISそのものをカリキュラムに加えられたIS学園の職員として働いていると、用務員という外様な立場とは言え最低限の知識は弁えなければならず、愛しい弟分がISの熟達に躍起になって取り掛かっているため、時代に取り残されぬようにデジタル世代に挑む老人のような心境で、渋々ISについて学び始めていた。
 第一世代の鎧のような無骨なフォルム。第二世代の露出が増えた代わりに多彩な武装に彩られた戦化粧。そして、アリーナで燕の様に飛び交う第三世代。どれも人の命を容易く奪うほどの火力を持ちながら、何処か遊戯めいた雰囲気を醸し出していた。
だが。

「こいつは…」

 どれにも当てはまらない。IS学園で生徒が戯れていた機体とはモノが違う。違いすぎる。ダイアモンドダストの様な輝きに包まれた白銀のISは、背部の翼のようなスラスターを、今まさに羽ばたかんと広げた。更にその翼から光が溢れる。その光に全てが冒されていく。木々は萎れ、川の水は干上がり、大気が軋みを上げていく。
 ラシャは呆けていた自らを恥じた。あの白銀のISの攻撃は既に始まっていたのだ。

「キアアアアアアアアアァァァァァァ!!」

 天使が吠えた。光の翼から羽と思わしき無数の光弾が雨のように降り注いだ。
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