第二十一話:敗走
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作。完成した存在にとっては取るに足らない存在だと考えていた。
その結果がこれだ。最愛の主が用立ててくれた衣服は原型を留めぬ有様となり、最早生きて帰ることさえ難しい状態まで追い込まれてしまった。
「……やだ」
少女は何とか声を振り絞る。
「いやだ!!私は帰るんだ!!私にクロエ・クロニクルと名付けてくれた束様の元へ!!」
少女は自らでさえ驚愕するほどの膂力で以って拘束から脱した。行き先は未定、兎に角この絶望からできるだけ遠くの何処かだ。へし折られた右腕が走るフォームを大いに邪魔する。
いっその事斬り落としてしまおうかという思考が頭をよぎった瞬間、折れた右手に刃物が突き刺さった。
「ぃぎぃ!?」
絶望が再び全身を侵していく。振り向けば、ラシャが休日に散歩をするかの様な足取りでこちらへ近づいてきていたのだ。
「おぉ、意外と当たるもんだな」
ラシャは、クロエの左脚に突き刺さっていた短剣を引き抜くと、右腕の袖に仕込んでいたベルトにはめ込むように装着した。
「良い玩具だろう?お前のようなやつの鼻っ柱を折るために拵えた。スカウトナイフの様に刃が飛ぶ仕組みになっている。その左脚の痛がり様だと、作った甲斐があったと実感するよ」
ラシャは袖から飛び出した血染めの刃を得意げに見せびらかした。そこにある表情は嗜虐的な笑みで形作られており、とてもIS学園の用務員をこなしている男の顔からはかけ離れていたものだった。そう、今のラシャはラシャであってラシャではなかった。
「『私』はお前なんかとは違う。今日の今日まであらゆる人間を、あらゆる方法でいたぶり、あらゆる死に様で幕引きを行ってきた。高々数年程度過ごしたお前にどうこうできるとでも思っていたのか!!」
ラシャはクロエの右手を縫い付けているナイフを思い切り蹴りつけた。丹念に研がれた刃が彼女の手を木くずと骨片をぐちゃぐちゃにかき回す。更なる苦痛の上乗せに、固く閉じられていたクロエの双眸が、裂けるように見開かれた。
三度世界が崩壊する。ラシャの周囲にはラウラ・ボーデヴィッヒが群をなして取り囲んでいた。各々の手にはナイフや長剣。拳銃やライフルまでもが握られており、並々ならぬ殺意を振りまいていた。その様たるや飢えた野犬の群れに等しく、生肝まで食らわんとする気迫を見せていた。だが……。
「馬鹿の一つ覚えめ!!」
ラシャは波濤の如く押し寄せる殺気なぞどこ吹く風と言うような様子で、クロエが落としたサバイバルナイフを拾い上げた。
「お前は体内に組み込まれたISを使って幻覚を見せているのだな。恐らく嗅覚を中心に相手の脳神経に介入してラウラ・ボーデヴィッヒの群れを見せている……だが」
ラシャは眼前の樹にナイフを突きつけた。唐突に世
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