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豹頭王異伝
薄明
瀕死の鷹
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 赤い街道の通じる人里から遠く隔たり、自由開拓民の形跡も無い山中。
 荒涼とした風景の一角が翳り、黒い霧が湧出。
 立体的な闇の領域が濃度を増し、もやもやとした影が渦を巻く。
 影は急速に形を整え、上級魔道師アイラス以下数名が実体化。
 最後に純白の長衣と銀色の鎧を纏う騎士、ベック公ファーンが現れた。

 アルド・ナリスと異なり、聖騎士団を束ねる従兄弟は魔道に親しまぬが。
 非常事態と認識し魔道師に身を委ね、意識の無い状態で閉じた空間を運ばれた。
 気付け薬の効果で目を覚まし、魔道師の報告を受け現在位置を確認。
 草原の民と共に天山ウィレンを踏破した勇者の命令に従い、魔道師は姿を消す。
 聖王家の武人は包み隠さず、スカールの所在地と教えられた洞窟に接近。
 案の定、鋭い誰何の声が響いた。

「誰だ!?」
「密偵め、覚悟しろ!!」
 地から湧き出したかとも思える複数の影、荒くれ武者が聖王の従兄弟を取り囲むが。
 聖王家の大元帥は相手を苛立たせぬ様、沈着な声色で名乗りを上げた。
「スカール殿に従い天山ウィレン山脈を越えた者、ベック公ファーン。
 太子殿に対面を希望している、と当時を知る方々にお取次ぎを願いたい」

 スカールを慕う草原の民に天山、ウィレン越えの冒険譚を知らぬ者は無い。
 一気に緊張が解け、鮮やかな色彩の布切れを身に纏う剽悍な戦士達が刀を引く。
 本来であれば草原の風に靡き、モスの大海を泳ぐ熱帯魚の様に地を彩る装束だが。
 精悍な戦士達の表情は厳しく、グル族の衣装も色褪せて見える。
「失礼した、頭立った者を呼ぶので暫しお待ち願いたい」
 表情を和らげ、穏やかな口調で告げる見張り番の戦士達。

 無人の荒野に突如として現れ、潜伏場所へ迷う事無く歩を進める不審な男。
 石の都に住む密偵と判断して当然の侵入者だが、身に纏う雰囲気は紛い物に非ず。
 パロの民に対する本能的な警戒心、偽装を見抜く野性の勘も警報を出しておらぬ。
 草原の男は己の直感を信頼し、素直に従う術を心得ている。
 口笛の長短と音程の高低、旋律と符号の複雑な連鎖。
 念話に優るとも劣らぬ密度の情報が短時間で行き交い、1人の男が現れた。

「パロの殿方!
 如何なる術にて我等、グル族が此処に居ると御知りになられた?」
「おお、タミルか。
 久しいな、スカール殿の容態は本当に酷いのか?」
 長老グル・シンが後継者と見込み、スカールの信頼も篤い騎馬集団の副長。
 勇猛な草原の民グル族を束ねる実質的な統率者、タミルが眼を見開いた。

「私の名を、覚えておられるのですか!
 黒太子様の体調を何故、ファーン様が御知りになられた?」
「世界の屋根と謳われる天険ウィレンを共に越えた仲間、戦友の名を忘れはせぬ。
 一瞥以
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