薄明
瀕死の鷹
[3/4]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
。
是もまた己が運命と太子様は既に死を覚悟し、達観しておられます。
俺の死後はスタック王の怒りも解けようから、お前達は草原に戻れ。
其の様に我等に命じられた後、話をする事も叶わなくなりました。
パロの御方、お願いです。
我等全員の命を差し出しても構わぬ、太子様を御助け下さい」
タミルの言に草原の民は全員が唇を噛み締め、再び嗚咽と呻き声が洩れた。
ベック公ファーンの表情も急速に曇り、魔道師達へ準備を急げと檄を飛ばす。
「そこまで、スカール殿の病状は悪化しているのか!?
黒魔道師に頼らぬ治療の術が存在する旨、体験者の私から御説明する。
スカール殿の気性、己の言を曲げぬ事は私も良く理解しているが。
心配は要らぬ、必ず太子様の御生命は救って見せる」
パロ聖王家の第3王位継承権者、クリスタルを外敵から護る聖騎士団の頭領。
黒太子を救う可能性を秘めた来訪者、ベック公ファーンの宣言が荒野に響く。
屈強な草原の男達が純真な子供の様に、気弱で縋る様な眼差しを向けた。
敬愛する族長の代行者を筆頭に、グル族の戦士達は一斉に頭を下げる。
道を開け洞窟の奥へ誘う彼等の不安を、ファーンは痛い程に感じた。
彼等に取り黒太子は草原を見守る大神モスの化身、太陽そのものであるのだ。
スカールを喪う事など草原の民には想像も出来ない、世界が永遠の闇に包まれるに等しい。
だが訪問者の眼に映った黒太子は髪の毛が全て抜け落ち、幽鬼の如くに痩せ衰えていた。
頭を持ち上げる事も叶わぬ草原の黒太子を気遣い、背後に控える従者タン・ターが動いた。
スカールに苦痛が生じぬ様に気を配り、壊れ物を扱う様に繊細な動作で優しく慎重に支える。
ファーンの眼が大きく見開かれ、周囲を埋める草原の民から堪え切れぬ嗚咽が漏れた。
タミルの叱責しようとする気配を察した来訪者、ファーンの眼が制止は無用と告げる。
グル族の統率を代行する者としての気持は痛い程に解るが到底、止める気にはなれぬ。
念話と異なる以心伝心の共鳴作用が生じ、グル族の勇者は感謝の念を視線に込めた。
黒太子と共に天山ウィレンを踏み越え、友と呼ばれる機会を得た聖王家の武人。
ベック公が風雲児の正面に屈み込み、今なお剛い光を放つ鷹の瞳が旧友を直視。
計り知れぬ苦痛を堪える鋭い眼に一瞬、驚きの色が走った。
瞳が和らぎ微かに瞼が動くと同時に、タミルが動き来訪者の唇に耳を寄せる。
病人の心情を汲み取り言葉に変え、重篤の病人に苦痛を与えぬ様に小声で囁く。
「ベック様はどうなられたのか、太子様はとても心配していました。
ウィレン越えに同行した誠実な武人が、同胞を屠る竜の化物の側に立つとは考えられぬ。
黒魔道に操られているか、悪くすれば
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ