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豹頭王異伝
薄明
瀕死の鷹
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来だが事態は一刻を争う、スカール殿の許へ歩きながら事情を説明させて貰いたい」
 己の務めを忠実に果たす実直な忠臣、グル族の勇者は硬い表情を緩め固く手を握った。

「貴方は石造りの街に住む恩知らず共とは違う、草原の神モスが祝福する真の勇者。
 事情など聞かずとも私は貴方を信じる、黒太子様の居場所へ御案内します」
 タミルの即断即決に応え裏表の無い好漢、ベック公ファーンの瞳も感激の色を映す。
 パロ聖王家の直系に近い数少ない生存者、誠実な勇者は信頼と好意に応え言を継いだ。

「私は草原の民に助けられ、パロ解放に力を貸してくれた事を深く感謝している。
 スカール殿の病状を和らげ一片なりとも恩を返す為、お主達を訪ねて来たのだ」
 ケイロニアを凌駕すると一時は噂された大陸軍国、モンゴール軍を蹂躙した騎馬民族。
 つい先日に総勢2千騎のみで新生ゴーラ軍を襲い、3万の軍勢を大混乱に陥れた勇者達。
 グル族の次期族長タミルのみならず周囲を囲む草原の戦士達、全員の眼に涙が溢れた。

 心痛を如実に偲ばせる嗚咽の傍ら、タミルが懸命に言葉を搾り出す。
「太子様は馬に乗る所か立つ事、話す事も出来ない状態です。
 我々は知る限りの薬草を試し、自由国境地帯に住む医者にも診せたが治療の術は見当たらぬ。
 ゴーラ軍を夜襲の際、黒太子様は妻仇を討つ寸前まで追い詰めたのですが。
 イシュトヴァーンとやらは敵わぬと見て、卑怯にも一騎打ちから逃げたのです。

 数日の間は黒太子様の再来を恐れ、ゴーラ軍の陣中にも戻らず行方不明であったのですが。
 ケイロニア軍と戦闘が始まってしまった為、スカール様も一旦は襲撃を断念しました。
 ゴーラ軍がケイロニア軍に勝てる筈は無い、敗走し母国へ逃げ帰るに違いない。
 イシュタルへ向かうと読み帰路を待ち伏せ、再び襲撃する予定で我々は北へ向かいました。

 ところが自由国境地帯を行動中、太子様は急激に体調を崩し黒い血を吐血されたのです。
 他の者達には悪い風が入り気分が優れぬと言ったが、私にだけは打ち明けて下された。
 ファーン殿と再会の後に草原へ戻り、一時は病に斃れるかと思われた時の事ですが。
 太子様の治療を無償で行うと称し接近を図った黒魔道師、グラチウスの薬を断った為であると。

 オー・ラン元将軍邸を密かに訪れた後、パロ方面へ南下する途中で薬が切れてしまったのです。
 太子様は立つ事も出来なくなったのに、唯一の薬を持つ魔道師は姿を現しませんでした。
 光の船とやらの噂も聞き及んでおり、再度パロで治療を試みられてはと懇願したのですが。
 パロには2度と足を踏み入れぬと太子様は仰り、容態は悪化の一途を辿りました。

 草原の神モスの下された絶好の機会、ゴーラ王を討ち取る好機を逸したは心残りなれど
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