エピソード3・始まりのオーメン
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なる中、月詠幻歌は徐々に私の心を穏やかにしてくれていた。そんな時、屋敷の扉が静かに開く音が聞こえてきた。
「気にせんと続けて」
クレスにそう言われたので、私はそのまま月詠幻歌を歌い、そして……今日のコンサートは終わった。
「ど、どうでしたか……?」
「あぁ……懐かしいなぁ……。えらい懐かしい歌や……記憶の奥底に眠っとった思い出が、次々と蘇ってくる……。あ、やばっ、あまりの郷愁でほろっと来たわ」
「えっと……クレスさんって、昔ニダヴェリールに来たことがあるんですか?」
「ん? そもそもうちはニダヴェリール生まれやで? それもアクーナ村長の血筋」
「え? ……えぇ!? わ、私もニダヴェリールのアクーナ生まれです!」
「やっぱりな。あんただけうちの出身を知った時、大して驚かんかった。あんたも向こうの世界出身やったから、少なからずこっちに来たのが他にもおる可能性も想定しとったんやろ?」
「いや、それでも驚きましたよ。あ、でも……アクーナはもう……」
「知っとるよ、ファーヴニル事変でニダヴェリールごと滅んでもうたと。故郷が滅んでもうたのは悲しいし、めっちゃ悔しいわ。でもな……あんたがこうして生きとるのは、あいつのおかげなんやろ?」
「あいつ?」
「サバタや。なんちゅうか……昔ちょっと色々あってな、あいつのことはうちなりに気にかけとったんや。イストラカンの戦い、サン・ミゲルの戦い、楽園の戦い、次元世界の戦い……星読みかエレンを通じて、うちはある程度結末を見てきた」
それは一種のストーカーなのでは……?
その言葉は言わずに胸に秘めておくことにした……皆の心、特にサバタさんの平穏のために。
「なんか変なこと考えとらんか?」
「い、いえ何も」
「……まぁええわ。とにかくあいつのおかげで、うちと同じ故郷出身……しかもその歌を継いでくれたあんたが助かった。そう考えたら、悲しみより嬉しさの方が増してな……」
「クレスさん……」
「あんたが生きててくれて嬉しい。うちの心からの言葉や。……さ、明日もあるんやし、そろそろ寝ときぃ」
「あ、はい。おやすみなさい」
そう言ってまるで孫を見守る祖母のような表情を浮かべるクレスにお辞儀した私は、部屋に戻って布団に入った。歌と会話のおかげで緊張もほぐれて、私は心地よく眠りにつくことが出来た……。
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