第二十話:残滓
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女の身体は引き締まっていたが柔らかかった。化粧やお洒落に無頓着だったとは言え、元々兼ね備えていた凛々しい美貌に、社会人のマナーの教授の一環としてラシャが贈ったコロンの香りも相まって、ラシャの心を大いにかき乱すことになった。
「伊達や酔狂でお前に付き合っていたと思っていたのか?」
少し意地悪い表情を浮かべた千冬がこちらを覗き込んでくる。その顔面が真っ赤なのは夕暮れの日差しを浴びているだけとは思えない。
「なあ、ラシャ……」
千冬の手がラシャの頬を覆う。繊細な陶器を扱うような慎重さで持ち上げる。
「……千冬ちゃん?」
ぎこちない様子でゆっくりと顔を近づける千冬。ラシャはただただ、されるがままにされている。やがて、二人の唇が触れ合おうかという最中。
ラシャの左腕が別の生き物のように震えると、手首の仕込み刃を千冬の首筋に突き刺した。
「がっ!?」
驚愕に染まる千冬。対するラシャも自らが何をしてしまったのか理解できていない様子だった。
「な……千冬、ちゃん?」
「ラシャ……ど、うして…」
絶望一色に表情を染めた千冬。徐々に目や口から血が滴り、傷口からは生暖かい命が無慈悲にも溢れ出ていた。彼女の命の灯火が、今まさに尽きようとしているのは明白だった。
「そんな!?……おれは……しっかりしろ!!」
パニックを起こしつつも、どうにか彼女の首筋の止血を試みようとするラシャ。しかしその時、ラシャの口から思いもよらぬ声が出た。
「殺してやるワ、『白騎士』ィ!!」
ラシャの意志ではない。何者かが彼の口を借りて叫んでいるのだ。
「どう、して……ラシャ……どうして……」
絶望に満ちた言葉をうわ言のように繰り返す千冬。しかし、その手はラシャの首に伸びており、尋常ならざる力で彼の首を締め付け始めた。
「ご……が……ち、ふ、ゆ…」
脳が酸素を求めて警報を鳴らしている。視界が明滅し、色彩を失う。だが、ラシャの腕はまるで意思を持ったかのように千冬の首筋をえぐり続ける。
「憎い憎イ憎い憎イ!!お前も!暮桜も!紅椿モ!!」
この声は、今もなお締め上げられているラシャの喉から出ているとは思えなかった。それ程その声は苛烈で憎悪に満ちていた。
「どう__して、ドウ__シテ__」
「やめろおおぉぉぉぉ!!」
遂に、謎の憎悪は千冬の頭に手を絡ませると、この世のものとは思えない絶叫を上げて頸を捻り切った。顔面に大量の血を浴び、視界が赤黒く染まる。そして、世界は再び崩れ落ちる。
光──夕日が目を刺す。あの時と同じように奇麗な色彩が美しいレヴナント光が降り注いでいた。
ラシャは森のなかに居た。あの真紅のISの衝撃波
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