第二十話:残滓
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懐かしい臭い……。汗と檜と井戸水の臭いを。
「起きろ」
女性に声を掛けられた。ぶっきらぼうだが、優しくて懐かしい声だ。もう何年も聞いていないような気がする。昨今の傲岸不遜な声色ではなく、ある程度の平等が存在していた時代の声。
ラシャが薄目を開けると、夕暮れの日差しが目に入ってきた。同時に袴に和服を身に纏った黒髪の女傑の呆れた表情が目についた。彼女の名前は…。
「千冬ちゃん、俺はどれくらい眠ってた?」
自然と口をついて声が出てきた。そして同時に自らの置かれている状況を悟った。此処は篠ノ之神社の一角にある道場だ。ラシャが狂うまで通っていた純和風の道場。新当流の流れを汲むと思われるも、剣術の他に馬術、弓術、組打術、槍術と、鉄砲術を除いた戦国期の武術をまとめた篠ノ之流を教える道場。しかし、今となっては剣術以外の武術は絶えて久しい状況にあった。
そんな中、考古学をかじっていたラシャの尽力によって、蔵の中の書物を様々な人間の力を借りて解読した結果、失伝したはずの篠ノ之流の一部を修復することに成功したのだ。
それからラシャは千冬達と共に篠ノ之流の検証と実践に明け暮れる日々を送っていた。今は卒業論文の執筆に時間を割きつつ、実践と解読作業のまとめに入っていた。今はそんな最中の一幕だ。
「1時間ぐっすりと眠っていたな。少々根を詰め過ぎちゃいないか?」
千冬は心配そうな表情でこちらの顔色を伺ってくる。彼女には実践稽古や技の検証について大いに助けられている存在だ。だからこそ、体調に関しては嘘偽りを言う訳にはいかない。
「大丈夫だ、眠ったお陰でとても清々しい気分だ」
ラシャは上体を起こすと、傍らに置かれていた土瓶のお茶を茶碗に注ぎ、飲み干した。
「飲むか?」
「貰おうか」
即答する千冬にも一杯注ぐ。彼女もラシャのように一気に飲み干す。
「一夏達が夕食を作っている。もう少し時間がかかるそうだ」
確かに、何処からかなんとも食欲をそそる香りが漂ってきている。多幸感に包まれたラシャは、再び縁側に横になった。
「豚の生姜焼きか、それに味噌汁……」
「一夏の奴が張り切っててな、お前が寝る前から仕込みを始めてたんだとさ」
半分呆れたような表情で千冬が呟く。
「一夏達に混ざれないだけで拗ねるなよ」
ラシャは楽しそうにからかった。
「な、何を言うか!私は別に……」
「そこまで過保護だとあいつに娶られる嫁が可哀想だ」
「ふ、ふん。その頃には私はお前に貰われているさ」
「……え?」
ラシャの鼓動が一瞬で早まる。思わず千冬の方に視線を向けようと寝返りをうった際、千冬によって頭を掴まれ、彼女の膝にあてがわれた。所謂膝枕というやつだ。
彼
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