第十八話:殺人鬼と夏の空
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た。
暗い暗い闇の中に、灯火のように光るディスプレイの電子光。その光に照らされて幽鬼のような顔が浮かぶ。元は美しく均整の取れた顔だったのであろう。だがしかし、この様なシチュエーションで映るそれはおぞましく、目の下の隈と口元にあられもなく付着した食べかすの存在がさらに対象の美貌を損なうことに拍車をかけていた。
彼女のナリを一言で表すのであれば、『混沌』にして『歳不相応』であった。サイズの合わないエプロンドレスは豊満な肢体を辛うじて覆い隠している状態で、頭には機械じかけの兎耳のカチューシャを身に着けている。
果たして、この様な破綻者がかつての学会の寵児のなりそこないであった天才にして天災でたる篠ノ之束博士だと気付く人間はいるのであろうか。
「待っててね〜箒ちゃん。今すぐ届けてあげるからね〜」
自らが何を妹に渡すのか、そしてそれがいかなる影響を世に与えるか。彼女は永久に考えることはしないだろう。彼女にとっては妹の機嫌が最優先。その他の有象無象なぞ眼中にはない。彼女の世界を形作っているのは、今となっては実の妹と親友、親友の弟のみである。
極論でも何でも無く、彼女は妹達さえ居てくれれば何兆人人口が増減しようが意に介さない。
「暫く会ってないから箒ちゃんもいっくんも見間違えるだろうな〜。束さんの推測サイズより大きくなってたらどうしよう!?うふふふふ!!」
下種の思考に身を任せて悶ている束は、自身の移動用ラボに搭載してあるレーダーがたくさんの光点を示していることに気付いた。
「ん〜?おお、対空レーダーの巣だ!!よくもまあこんなに設置したよね。ごくろーさん」
自身の襲来を予期されていたにも関わらず、束の眼に狼狽の色は無かった。伊達に十数年以上世界の目を逃れる逃亡生活は伊達ではない。
「んじゃあこっちにも考えがあるもんね…っと、くーちゃんくーちゃん?聞こえる?」
何処からか取り出してきたヘッドセットを兎耳を器用にかわして装着すると、束は予定していた周波数に呼びかけた。返事はすぐ返って来た。同時にモニターに瞼を閉じた銀髪の少女の顔が浮かぶ。
「御用でしょうか束様」
「も〜!束さんのことはママで良いって言ってるじゃん!!」
「そういう訳にはいきません」
「くーちゃんも頑固だねー、誰に似たんだろう?」
愚痴をこぼす束の表情に苛つきはない。寧ろ、彼女の一挙手一投足をどことなく楽しんでいる節があった。
「まぁいいや。くーちゃん、露払いよろしくね〜。ひょっとしたら『あいつ』に会えるかもしれないから本気でやってね?」
「畏まりました」
くーちゃんと呼ばれた少女は恭しく一礼すると通信を切った。
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