第十八話:殺人鬼と夏の空
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巻き戻しの音が響く中、先に口を開いたのはラシャだった。
「篠ノ之…束!」
「ノイズだらけですが、声紋分析では本人の声で間違いない様です。会話の相手は篠ノ之箒ですね」
「この会話はどこで?」
「篠ノ之箒の携帯電話には盗聴器を含めた逆探知システムがインストールされています。あの過保護な天災がいつかアプローチすると踏んで、ね。尤も、妹の方からコンタクトを取る事態は想定外でしたが……」
轡木理事長の表情は能面のように無表情だ。ラシャは暫く思案するように視線を泳がせた。
「この盗聴は理事長の独断ですか?」
「いいえ、日本政府と更識が仕込んでいました」
「IS学園は国家からの干渉を受けないのではなかったのですか?」
「篠ノ之束は白騎士事件以来、どう譲歩してもテロリストです。我々は学園を守る義務がある……例えIS工学の第一人者と言えども、学園の生徒を危険にさらす訳にはいきません。5月のクラス代表トーナメントに乱入した無人機の出処も明らかになっていない現状、彼女が学園最大の脅威です」
「……で、俺にどうしろと?」
不満げな声色とは裏腹に、ラシャの眼は期待に満ちていた。目より染み出た喜悦は頬を伝い、口角を釣り上げた。ラシャはその時、確かに笑っていたのだ。
「篠ノ之姉妹の対面を阻止して頂きたい。奇しくも臨海学校二日目は篠ノ之箒の誕生日でもあります。故に何らかのアプローチがあり、プレゼントという名の混沌が齎される可能性があります。たかが一姉妹間の絆をとやかく言いたくはありませんが、どうにも嫌な予感がします。何しろ相手は天災です。学園生徒の安全を考慮して行動して頂きたい」
「私に依頼するということはもしや…?」
ラシャのウキウキした様子に、理事長は何を今更とばかりに軽いため息を吐いた。
「勿論、有事の際には篠ノ之博士を殺害しても構いません。分類上はテロリストなのですから、世間上非難されはしないでしょう」
「了解しました。すぐにでも取り掛かれますよ」
椅子を蹴倒さんばかりの勢いで立ち上がるラシャ。その瞳は普段の彼からは想像できないほどの正気に満ち溢れており、喜悦に爛々と輝いていた。轡木理事長は、その表情に誕生日やクリスマスの訪れに浮つく子供を想起し、戦慄した。
「立て!降下準備!!」
警備主任の怒号によって現実に戻されたラシャは、周囲の武装警備員達と共にヘリから懸垂降下の準備を始めた。日本の夏独特の湿気を帯びた暑さと、それらを遠慮なく模倣する白砂の海へダイブする。
と思いきや、ラシャは熱砂の中へダイブする一団に紛れることはなく、ヘリ自体もラシャ以外の警備員が降下を完了した瞬間、直ぐに旅館への方角へと向かっていった。
「降下3分前、起立せよ」
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