巻ノ八十四 高野山その二
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「しかしな」
「やがては」
「内府殿は穏健に収めたいであろうが」
「大坂がですな」
「そうじゃ、茶々様がじゃ」
今や実質的な大坂の主である彼女がというのだ。
「どうしても納得されぬ」
「やはりそうですな」
「あの方は非常にお気が強い」
「はい、しかも」
「何もわかっておられぬ」
そうした人物だからだというのだ。
「このままでは収まらぬわ」
「内府殿がどう思われても」
「聞かれる方ではない」
「だからこそ」
「このままでは終わらぬ」
こう幸村に言うのだった。
「やがて。遅くとも十五年じゃ」
「それまでの間に」
「天下は大きく動く」
「そうなりますか」
「茶々様があれでは」
否定的に言った、ここで。
「徳川家が穏健にしたくともな」
「出来ませぬな」
「あの方はわかっておらぬし見えてもおらぬ」
こうも言うのだった。
「一切がな」
「何もかもが」
「そうじゃ、目が見えず耳が聞こえぬ」
「それと同じですか」
「ご自身は違うと思われていてもな」
それでもというのだ。
「実際はそうじゃ」
「そうした方が大坂の主では」
「どうにもならぬ、しかもじゃ」
「その茶々様を止められる方は」
「もうおらぬ」
大坂、そこにというのだ。
「治部殿なら出来たが」
「義父上も」
「出来た、しかしな」
「その方々はもうおられず」
「大野修理殿が今は大坂の執権であるが」
そうした立場になったというのだ、大野治長だ。茶々の乳母であった大蔵卿局の子であり三兄弟の長兄でもある。
「修理殿はな」
「はい、茶々様の乳兄妹であられ」
「絆は深いが」
「その深さ故に」
「茶々様に逆らえぬ」
「それがどうしてもですな」
「出来ぬ」
大野、彼はというのだ。
「他のことが出来てもそれだけは出来ぬ」
「そうした御仁故に」
「もう一人の家老片桐殿もな」
「押しが弱く」
「言えぬ、茶々様にな」
「それで、ですな」
「大坂には茶々様を止められぬ者がおらぬ」
それこそ一人もというのだ。
「代わりに徳川家にあたれる御仁もな」
「父上なら」
幸村は昌幸を見て彼に問うた。
「如何でしょうか」
「出来る」
昌幸は一言でだ、我が子の問いに答えた。
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