第十六話:ちょっとした修羅場
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と思ってな」
彼の胸中を理解したのか、千冬から溢れる禍々しい憤怒の気配が引き潮のように消えた。彼女の表情は作り笑いの表情から不満気な表情に変わる一方で、放心状態になっていた山田先生は、先ほど千冬に言われた言葉とラシャの発言を、朦朧とする意識の中で繰り返し繰り返し諳んじていた。
「はっ!違うんですよ!?偶々行き先に先輩が待ち伏せしていただけで、三人でのお買い物ではなく二人っきりでですね……」
「真耶」
慌てて訂正しようとする山田先生を、千冬が制した。もしも、言葉を形造れるのであれば、その声色は妬心に狂った利鎌のような蛇の牙の様であったであろう。山田先生は胸の内にある焦燥感を綺麗に刈り取られてしまった。それらに代わって胸中に蔓延ったのは死の危険を思わせる恐怖であった。今、確かに自身は尊敬すべき先輩である織斑千冬に殺気を向けられているということを敏感に感じ取っていた。口を開こうにも声が出ず、いたずらに時間が流れ行くのみ。
「さて、ともかく合流したことですし目的を果たしますか。何を買いに行くのですか?」
大きく伸びをしてリラックスをしたラシャの表情は出発当初に纏っていた神妙な雰囲気が跡形もなく取り払われていた。周囲に立ち込める千冬の殺気に晒されているにしては明らかに場違いであった。
周囲の人間が怯えたり、堪らず腰を抜かしたり失神してしまう者が出始めた辺りで、千冬は殺気を漸く緩め、ラシャの方へ向き直った。
「臨海学校への水着を購入する予定だ。何せ最近の流行りなぞには疎いからな、第三者の意見を聞きたいんだ」
「俺を頼っても大したことは出来ないが良いのか?」
「大丈夫だ、お前が良い」
「そんなことならお安い御用だ。どうせ暇していたからな」
ラシャは足取り軽く、それこそ鼻歌でも歌い出しかねない気軽さで、レゾナンスへ向かって歩を進めていった。そんな中、漸く弛緩していた脚の筋肉に力が戻り始めた山田先生は、千冬が自らに手を差し伸べていることに気付いた。
「あ……先輩、ありが……っ!?」
その手を掴んだ瞬間、山田先生は凄まじい勢いで千冬の胸に飛び込むような形になった。凄まじい力で千冬が彼女の身体を引き寄せたのだ。本日何度目かの戸惑いの表情を浮かべる山田先生に対して、千冬はそっと耳打ちをした。
「人のものに手を出すな、次は無いぞ」
地獄の底から響いてくるような、人と思えない程冷えきった声が、それこそ鎌鼬のように山田先生の耳孔を凍りつかせた。
山田先生はあまりの恐怖に千冬の顔を直視できなかった。幸いなことに逆光が彼女の表情を覆い隠してくれていたので、彼女の心はそれ以上恐怖に侵されることはなかった。何とか折れる寸前だった心を奮い立たせ、五体に熱を取り戻した時、千冬がラシャと「並ん
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