第十六話:ちょっとした修羅場
[2/5]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
に、ラシャはよくやけ酒に付き合わされたりしていた。
思わず回れ右してベッドに倒れ伏したくなる衝動を何とか抑えて、気を引き締めたラシャは騒動の渦中へと歩を進める。ラシャの存在に気付いた女子生徒がどよめきながら道を空けていく。紅海を割るモーゼの如く群衆を掻き分けたラシャは、山田先生に対して硬い表情のまま軽く一礼した。
「失礼、少々遅れましたか?」
「い、いいえ!大丈夫です!!私が早く来過ぎただけですから!!」
唖然とする榊原先生の拘束から何とか抜けだした山田先生は、慌てて手を振ってとりなした。その様子を見たラシャの表情もいくらか和らいだ。
「それでは行きましょうか」
ラシャに手を引かれて慌てて歩調を合わせて歩く山田先生の姿は恋人というより不器用な兄についていく妹のようにも見えた。
編田羅赦の自己評価は驚くほど低く、それは自らの外見に対しても例外ではない。だが、彼の外見は少々硬い印象を与えるが、より均衡の取れた優男風の相貌を持っておりながら、体躯は強靭なれども柔軟さを備えた偉丈夫である。そのような男が穏やかな、下品な言い方をすれば女人受けしそうな表情を浮かべれば、女尊男卑が浸透したことによって慢性的な男日照りに苛まれた者達の心を鷲掴みにするのは実に容易いことであった。
「やっぱり私、この人をオトすわ。私にはこの人しか居ないのよ……」
呆然とする生徒たちの中で榊原先生がそう呟いた。周囲の教員は、彼女が珍しくまともな人間に惚れた事に驚愕の表情を浮かべたが、恋慕の対象である彼の本性を鑑みるに、此度の恋愛も彼女の法則に当てはまる運命である事は確かである。
ラシャと山田先生は駅前のショッピングモール「レゾナンス」前で固まっていた。眼前には禍々しいオーラを振りまいている存在が居たからだ。この界隈では知らぬ者は居ない超有名人にして古馴染み。織斑千冬が笑顔で仁王立ちしていたのだ。
「待っていたぞ」
思わずラシャは一歩後ずさりする。表情に合わぬ憤怒の気配に思わず気圧されたのだ。学園の汚れ仕事を喜々として受けていた表情は鳴りを潜め、ただの謂われなく追い詰められた一般人がそこに居た。
「ど、どうして此処に?」
完全に萎縮してしまっている山田先生に代わって何とか絞り出した疑問。ついでに何故怒っているのかも訊きたかったが、そこまで踏み込めるほど「表のラシャ」はふてぶてしくなかった。
彼の問いかけに対し、千冬は満面の笑みを浮かべる。普段滅多に浮かべること無い表情に、ラシャの背に悪寒が走る。「笑うという行為は本来攻撃的なもの」だという説は根拠もない虚説であると学会はみなしている。という話を思い出したラシャは、速やかにその説の洗いなおしをすべきなのではないか、と感じた。
「どうし
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ