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殺人鬼inIS学園
第十五話:草食動物と殺人鬼
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き届いた武家屋敷の様な上品さが見て取れた。篠ノ之道場で時に竹刀を、時に木剣を、時に真剣を振るって居たラシャにとって心地よい空間であった。同時に脳裏に在りし日の光景が木漏れ日のように脳裏に閃いた。
 赤樫の木刀、誰に対しても抜身のように冷たく接していた千冬の仏頂面。稽古後に浴びる井戸水、千冬の手に引かれてやって来た一夏。握り飯、箒の拒絶するような瞳。そして、「奴」の存在。様々な光景が浮かんでは消えていった。

「ラシャさん」

 ふと、声が耳に届いた。顔を向けると、にこやかなほほ笑みを浮かべた真耶がそこに居た。

「失礼、終わりましたかな?」

 パンフレットを懐に仕舞い込みながら席を立つラシャ。ソファの心地よさが名残惜しいが、職務に忠実である為にネクタイを締め直す。

「はい、あとは現場の視察だけですので夕方には終わります、もう少しお付き合い下さい!」

「畏まりました、お供いたします」

「そ、そんな……お供だなんて……態々付き合って頂いているのにそこまでかしこまらなくても……」

 ラシャは、わたわたと慌てる山田先生を突如手で制すと、表情を引き締めて彼女に迫った。

「ら、ラシャしゃん!?」

 瞬時に赤面した山田先生は噛み噛みになりつつ、壁際に追い詰められた。心音が彼女の聴覚を塗りつぶし、顔からは火が出るがごとく汗が吹き出す。

「あ、あの……ラシャしゃん。私、心の準備が……」

 必死に絞り出した声。だが、ラシャはそれでも態度を変えない。そして。

「御免」

そう呟くが否や、ラシャの腕が鞭のようにしなり、山田先生の右頬を掠めた。

「キャッ!?」

「お、お客様!一体何を!?」

 予期せぬ唐突な攻撃に、山田先生は悲鳴を上げてうずくまった。傍から見れば、ラシャが彼女に向かって謂れ無き暴力を振るったようにしか見えなかったのであろう。慌てて女将が駆け寄ったが、直ぐに表情を青褪めさせた。

「蜂……?」

 彼女の視線の先には、ラシャの指につままれたスズメバチが獰猛に顎を打ち鳴らしながらもがいていた。

「失礼、少々洒落にならないモノが居ましたので、已むを得ず手荒な真似を致しました」

 ラシャは軽く一礼すると、指を一捻りしてスズメバチの首をもぎ取って処分した。



 その後、旅館周囲や実地試験専用シークレットビーチの視察を終えた二人は、駅に向かって歩いていた。

「ラシャさんにはまた助けられちゃいましたね……」

 唐突に山田先生がそう呟いた。ラシャは「また」という言葉に首を傾げる。確かにこの草食動物めいた女性教員は、その辺の蝶々を追いかけて迷子になりかねなさそうな無防備の極みを具現化したような雰囲気を纏っているが、存外ピンチには縁遠い印象を受ける
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