第三章
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その初陣の時を迎えた。具足に陣羽織を着てもだった。
元親はやはりひょろ長く白い。まるで具足に着られている様だった。
槍を持っているが実に頼りない。その彼を見てだった。
旗本達も足軽達もだ。こう言うのだった。
「やはりのう」
「うむ、全く似合っておられぬ」
「まさに姫が具足を着た様なものじゃ」
「今にも倒れそうではないか」
「あれで戦の場で戦えるのか」
「采配なぞ執れるのか」
「不安で仕方ないわ」
「全くじゃな」
こう言い合うのだった。とにかく誰もが元親が満足に戦えるとは思えなかった。
それは国親もだ。本陣の幕の中で主な家臣達に不安で仕方がないといった顔で言うのだった。
「遂にこの時になったがのう」
「はい、若殿はといいますと」
「本当に頼りないですな」
「やはり戦はできませぬぞ」
「見てわかります」
「無理です」
「わしもそう思う」
国親は苦々しい顔で述べた。
「まあ大したことにならんうちにな」
「若殿を下がらせますか」
「そうしますか」
「そうする。しかしな」
元親への不安はそのままだった。
家への不安だった。国親はそのことを憂いざるを得なかった。
そうした状況で元親の初陣がはじまった。戦になるとだ。
元親は敵陣を見た。敵は前にいる。しかしだった。
敵陣の端にある林を見てだ。こう言ったのである。
「あの林を攻めようぞ」
「えっ、林をですか」
「そこをですか」
「父上は前の敵を攻められる」
これが今の長宗我部軍の采配だった。国親は前の敵に全軍で向かうつもりなのだ。
だが元親は敵陣の端の林を見てだ。こう直接率いる者達に告げたのである。
「しかし我等はじゃ」
「林をですか」
「そこを攻めるというのですか」
「うむ、すぐに林に近寄り」
そのうえでだというのだ。
「林に対して弓を放つぞ?」
「?若殿、どういうおつもりですか」
「そうされて何になるのですか」
「それがよくわかりませんが」
「どうしてでしょうか」
「すぐにわかる」
元親は淡々と述べる。
「そうすればな」
「ですか。それでは我等はですな」
「あの林を攻めるのですな」
「そうするぞ」
こう告げてだ。元親は己が率いる軍勢を林に近付けた。長宗我部の軍勢は次第に敵に近付いている。その中で彼の軍勢は違う動きをしたのだ。
その嫡男の動きを見てだ。国親は首を傾げてこう言った。
「一体どういうつもりじゃ」
「はい、あの林に何があるのか」
「何をお考えでしょうか」
「怯えて逃げるのか」
国親は彼が戦から逃げようとしているのではないかとさえ思った。
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