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蟹の愛情
第四章

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「後は娘を連れて行くだけ」
「それでは」
「別れは済ませたな」
 こう長左衛門に問うた。
「既に」
「ではな」
 そのことを聞いてだった、与太郎は。
 佳代を迎えようとする、だが。
 彼等の左右そして後ろからだ、突如としてだった。
 蟹達が出て来た、それも一匹や二匹ではなく。
 何万何十万とだった、彼等が出て来てだ。
 その鋏をガチガチと鳴らして蛇達を囲んだ、そうして言うのだった。
「蛇は蛇と結婚するのだ」
「それが世のならいである」
「そこは守るのだ」
「与太郎様、これは」
 与太郎の傍にいた者、蛇が変化した者が与太郎に言った。
「蟹達が」
「うむ、そうだな」
 与太郎も応えて言う。
「止めに来たか」
「その様です」
「何故蟹達が来た」
「それはわかりません、しかし」
「数が多いな」
「はい」
 蟹達のそれがというのだ。
「松山の蟹達が全て来たのでしょうか」
「この数は有り得るな」
「どうされますか」
 傍の者は与太郎に問うた。
「ここは」
「これから嫁を迎えるというのに」
「与太郎殿、言ったぞ」
 蟹達の中で一際大きな、それこそ畳にして八畳いや十畳はありそうな甲羅を持つ巨大な蟹が出て来て与太郎に告げた。
「蛇は蛇をだ」
「嫁とすべきか」
「そうすべきなのだ」
 こう言うのだった。
「人と結ぶべきではない」
「ではこの婚礼はか」
「諦めることだ」
 与太郎にはっきりと告げた。
「わかったな」
「わからぬと言えばどうする」
「言うまでもないと思うが」
 巨大な蟹は与太郎と正対して言った。
「この大甲利平がな」
「戦をするというのか」
「この鋏でな」
「与太郎様、我等は縄ですから」
 傍の者が与太郎にこう言った。
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