第三章
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「佳代はな」
「はい、そうしなければ」
「人は人と結ばれるものです」
「それが道理です」
「我等もそう考えていましたが」
「急にそんなことを言ってくるとは」
「困った、しかし断ればな」
その場合のこともだ、長左衛門は話した。
「言っておった」
「はい、この屋敷を粉々にすると」
「その様にですな」
「言っていたのですな」
「確かに」
「そうじゃ、相手は何百年も生きておるうわばみじゃ」
それだけにというのだ。
「恐ろしい力を持っておる」
「この屋敷を粉々にするなぞ訳はない」
「伊達にこの松山の蛇の総大将ではないですな」
「それこそ何万いるかわからない」
「その頭ではないですな」
「だからじゃ、断りたいが」
しかしというのだ。
「それが出来ぬ」
「困ったことですな」
「流石に蛇の嫁というのは」
「頷くことは出来ませぬ」
「どうにも」
家の者達も途方に暮れるばかりだった、それは話を聞かされた佳代も同じでだ。どうしていいかわからず溜息をつくばかりだった。
それで蟹の世話をする時もだ、蟹に言うのだった。
「どうしたものでしょうか」
この度はというのだ、しかしだ。
蟹は何も答えない、喋ることが出来ないのは当然のことだがだ。
蟹は佳代がその話をした次の日に何処かに消えていた、佳代は空になった桶を見て何処に行ったのかと思った。
しかしそう思っている間にだ、遂にだった。
一月が迫っていた、長左衛門は佳代に花嫁衣装を出しつつ言った。
「済まぬが」
「はい、これからですね」
「与太郎殿が来られる」
「この松山の蛇の総大将の」
「来られる」
「あと少しで、ですね」
「だからな」
それでというのだ。
「御主はこれから花嫁衣装を着てな」
「与太郎殿をお迎えして」
「そして嫁ぐのじゃ」
「わかりました」
佳代も力なく頷いた。
「それでは」
「済まぬな」
長左衛門もこう言うしかなかった、そしてだった。
佳代が花嫁衣装を着た時にだ、与太郎と多くの家臣達が来た。この時彼等は公達と下男の姿であった。
その姿で屋敷の門の前に来てだ、長左衛門達に言った。
「来たぞ」
「はい」
出迎えた長左衛門と家の者達が応えた。
「では」
「娘を貰い受ける」
与太郎は胸を張って言った。
「よいな」
「もう娘は花嫁衣装を着ていますので」
「こちらで祝言の用意は出来ておる」
湖の底の彼の屋敷でだ、それは出来ているというのだ。
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