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蟹の愛情
第二章

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「その家に」
「ではわしが自らな」 
 与太郎は楽しそうに言った。
「会いに行こう」
「そうされますか」
「うむ、人の姿になってな」
 妖力でそうしてというのだ。
「その家に行って挨拶をしてくる」
「そうされますか」
「そうしたことをするのも礼儀、しかし相手が断るなら」
「その時は」
「目にもの見せてくれるわ」
 こうも言ってだ、野心に燃える様な目でだ。与太郎は早速だった。
 見事な服を着た公達の姿になってだ、家臣の蛇達も下男達の姿と身なりにさせてだ。そのうえでだった。
 長左衛門の屋敷に行った、そして長左衛門を呼んで言うのだった。
「他でもない、わしはこの松山の蛇達の総大将じゃ」
「何と、蛇の」
「そうじゃ、名を長縄与太郎という」
 自らの名も名乗った。
「今は人の姿をしておるが」
「その実は」
「長さ二丈のうわばみじゃ」
 それが実体だというのだ。
「数百年生きておるな」
「その様な方がまたどうして」
「この屋敷に来たのかか」
「はい、一体」
「他でもない、わしは今正室を探しておる」
 与太郎は自分の前で己の話に驚く長左衛門に言った。
「御主の末娘の話を聞いてな」
「佳代のことを」
「そのことを聞いてじゃ」
 それでというのだ。
「是非にと思ってな」
「来られたのですか」
「差し出せばよい」
 与太郎はにやりと笑ってだ、長左衛門に告げた。
「しかし差し出さねばじゃ」
「その時は」
「この屋敷粉々にするぞ」
 壊し尽くすというのだ。
「そうする」
「そうせよと」
「一月後また来る」
「その時にですか」
「婚姻の用意はこちらでしておくからな」
 一方的にだ、与太郎は長左衛門に告げた。
「そちらも用意をしておけ」
「佳代を嫁がせる」
「それをしておけ、わかったな」
「はい」
 こう答えるしかなかった、長左衛門も。屋敷を粉々にすると言われてはだ。
「わかりました」
「ではな」
「うむ、ではな」
「一月後に」
「また来る」 
 こう言い残してだ、与太郎は屋敷を後にした。長左衛門は彼が多くの家臣達を引き連れて去るのを見送ってからだった。家の者を集めてこの話をした。
 するとだ、誰もがこう言った。
「何と無体なことを」
「そんなことを言ってくるとは」
「これは弱った」
「どうしたものか」
「幾ら何でも人に嫁がせたい」 
 長左衛門は苦い顔で家の者達に言った。
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