第一章
[2]次話
怪獣の来訪
小柳美紗子は病院で医師にそう言われた時にだ、思わずこう問い返した。
「本当にですね」
「はい、おめでとうございます」
医師は女医だった、細面で気品があり優しい顔立ちの美紗子ににこりと笑って告げるのだった。
「三ヶ月です」
「そうですか」
「ではです」
「これからですね」
「ご出産に向けてです」
「何かとありますね」
「はい、本当に何かとです」
出産のその時までというのだ。
「あります、ですが」
「ですが?」
「それからも大変なので」
「赤ちゃんが生まれてからも」
「はい」
女医はそこははっきりと答えた。
「ですから」
「注意が必要ですか」
「はい、お言葉ですが」
女医は美紗子を見ながら話す、一六二位の背ですらりとしたスタイルだ、長い黒髪を整えたブローにしていて清楚な感じがする。
「もうそろそろ危ない時でした」
「高齢出産ですか」
「三十五歳ですよね」
「はい」
「今でもぎりぎりでしたね」
それこそという口調での言葉だった。
「正直」
「高齢出産になるのはわかっていました」
美紗子もそこは言う。
「ですが主人と話をしてそれでもと」
「お子さんが欲しかったのですね」
「はい」
実際にとだ、美紗子は切実な声で話した。
「そう思っていまして」
「何とかですね」
「赤ちゃんが出来る様に努力してきました」
「そうですね、ですがぎりぎりなのは」
「なのは?」
「高齢出産以上に」
女医は美紗子に真剣な顔で話した。
「その後です」
「赤ちゃんが生まれてからですか」
「頑張って下さいね」
かなり切実な声でだ、女医は美紗子に言った。
「本当に、ご主人がおられても」
「それでもですか」
「そうです、やはり奥様が第一ですから」
だからだというのだ。
「ですから」
「私がですか」
「そうです、母親が第一なのです」
「赤ちゃんを産むのも出来てからも」
「子育てもです」
具体的な話もだ、女医はした。
「そうなのですから」
「子育てが大変なことも」
美紗子は女医に話した。
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