第一章
[2]次話
疫病
当時の欧州はこの世の終わりの様な有様となっていた。それはイングランドも同じであった。
ロンドンだけでなく各地でも黒死病が流行し地獄の様になっていた。
それはこの地域でも同じだった、街も村も黒死病が蔓延し多くの者が床に伏して次から次に倒れていっていた。
それでだ、領主であるアエバ子爵にだ、家臣達は対策を話した。
「ここはです」
「優れた医師を呼びましょう」
「そして民達を治療し」
「そのうえで救いましょう」
「その必要はない」
だが子爵はこう言った。確かな黒い眉を持ち黒髪を後ろに撫で付けている、面長で彫のある顔をしている。顔立ち自体は悪くない、だが非常に下卑たものがその顔に満ちていて貴族というよりは詐欺しに見える。
その子爵がだ、家臣達に己の座から言った。豪奢な自身の屋敷のやはり豪奢な部屋の見事な机に座ってだ。
「病に罹った者は隔離せよ」
「隔離、ですか」
「そのままですか」
「酷いのなら家族と家ごと燃やせ」
冷酷そのものの声で言った。
「そうしろ」
「あの、民達ですが」
「子爵の」
「それでもですか」
「お救いにならないのですか」
「その必要はない」
子爵はまたこう言った。
「それは金の無駄だ」
「医師を呼ぶことは」
「そのことは」
「そんなことをしても無駄だ」
医師を呼んで治療をさせてもというのだ。
「どの道助かることはない」
「だからといいますか」
「病に罹った民を助けず」
「そして、ですか」
「隔離ですか」
「酷い場合は焼き殺す」
「そうしろ、黒死病は感染る」
このこともだ、子爵は冷淡に言った。目の光は冷たく右手を拳にし顎に手を当ててそうして家臣達に言うのだった。
「それならだ」
「罹った民を隔離し」
「焼き殺すこともする」
「そうしてですか」
「病の源を消す」
「そうするのですか」
「そうだ、そうしていけ」
やはり冷淡に言う子爵だった。
「わかったな」
「ですが」
「民達を救うべきでは」
「あの者達は苦しんでいますし」
「そうすれば」
「病に罹った輩は穢れだ」
これが子爵の彼等への考えだった。
「そうした輩だからだ」
「隔離して焼き殺す」
「そうされますか」
「病に罹った者は余の民ではない」
また言ったのだった。
「それならば何の慈悲も必要ない」
「ですか」
「それでは」
「この決定に逆らう者も同じだ」
子爵は家臣達を睨みつけて告げた。
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