第二章
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「もうそれがよ過ぎて」
「やれやれ。またね」
「またそっちなのね」
「そう。一緒に行かない?」
こう言って誘う。
「もうね。そこには真の漢があるわ」
「まあそれもいいけれどね」
「プロレスって何だかんだで面白いし」
「けれど。亜美って本当に筋肉好きね」
「もう止まらない感じじゃない」
「だから男は筋肉よ」
ここでもこう言う亜美だった。
「それか予科練よ」
「予科練もうないから」
「戦争終わったから」
その七つボタンも過去のものになっている。尚予科練の門は狭く入ることは当時で東大以上に難しかった。
「だからプロレスなのね」
「そっちになるのね」
「そう。じゃあチケットはもうあるから」
言いながらそのチケットを何枚か出す。
「行きたい人言って。一緒に行きましょう」
「まあそれじゃあね」
「一緒に行きましょう」
何人かが頷いてチケットを貰った。そうしてだった。
そのプロレス会場に行く。するとだった。
二メートル近い筋肉の男達がぶつかり合う四角い戦場があった。亜美はそこで行われるバトルを見て言うのだった。
「これよ、これ」
熱中している顔での言葉だった。
「やっぱりね。こうしてね」
「ぶつかり合うのがいいっていうのね」
「筋肉と筋肉が」
「そう。もう最高よ」
目も輝いている。きらきらと。
「こうでないと駄目よ」
「亜美、涎」
「涎も出てるから」
見ればそうなっていた。亜美は口から涎さえ出している。
そのうえで試合を見てだ。こう言うのだった。
「そこで卍固めよ!」
「ああ、アントニオスペシャル」
「それだっていうのね」
「そして延髄斬り!」
何気に好みも言う。
「そうして!猪場さん最高よ!」
「ううん、アンジョニオ猪場さんね」
「あの人も凄いわね」
やはり大柄で筋肉質だ。顎の目立つ顔が印象的だ。
その華麗かつダーティな魔性のファイトを見てだ。亜美は観客席から熱狂して叫び続けているのである。
その彼女を見てだ。周囲も呆れて言う。
「けれど今の亜美は」
「ちょっとね」
「はしゃぎ過ぎよ」
どう見てもだった。それは。
「あのね。マッチョ好きもいいけれど」
「もう少し落ち着いたら?」
「何処のプロレスマニアなのよ」
「殆どそれになってるじゃない」
「そうよ。私プロレスファンよ」
これが亜美の返答だった。目をきらきらとさせて試合を観ながらの言葉にはこれ以上はないまでの説得力があった。
「筋肉と筋肉がね」
「好きだっていうのね」
「だからなのね」
「そう。観るのよ」
そして熱中するというのだ。
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