暁 〜小説投稿サイト〜
殺人鬼inIS学園
番外編:殺人鬼の昔話1 下
[6/6]

[8]前話 [9] 最初 [1]後書き [2]次話
 スコールは持っていたものをマドカの前に投げ落とした。それは背中に夥しい血痕を残したラシャのコートだった。

「嘘だ、嘘だ……ラシャ……」

 マドカは身をよじって何とかコートにたどり着くと、コートを確認し始めた。悲しきかな何度確認してもスコールの言っていることは事実に他ならなかった。

「これで貴女には帰るところはなくなったというわけね。お帰り『M』使命を果たしたければ服従しなさい」

スコールの言葉にマドカは何も答えず、ただ血の乾ききっていないコートを染みを虚ろな目で眺めていた。


 忘年某月某日 地球の何処か

「あいつらがあそこまで手玉に取られるとはなぁ……倉持技研の野郎、あんな手練を囲ってただなんて聞いてねえぞ、ちくしょう!人的資源だって安かねぇんだぞ!」

 一人の女性が苛立ち紛れに装備を脱いで壁に叩きつける。

「落ち着きなさい、オータム。情報によれば他の産業スパイ、もしくはエージェントが潜入していた可能性があるわ。倉持技研に潜り込ませているスパイによれば、単独で侵入した挙句、警備員達を無力化した人間が居たらしいわよ。おそらく、たまたま同じタイミングでかち合ってしまったのでしょうね……」

「あれほどの人間がしかも男で存在してるなんてなぁ……もし出会ったらぶち殺してやるぜ」

「頼りにしているわよ、オータム。……所で、Mはどうしたの?特に怪我もなく帰投したと報告が上がっているけれど?」

 怪訝な表情を浮かべるスコールに対して、オータムは露骨に不愉快な顔を浮かべた。

「ああ、あいつならずーっと自分の世界に篭もりっきりだぜ。何があったのかしらねえけどよ、あたしがアラクネで助けに行った時には、既にアホ面下げて呆然としてたね」

「そう……念の為にカウンセリングを手配しておこうかしら。ようやく脱走前のように働けるようになってきたから、なるべく早く調子を戻してほしいわね」


 マドカはベッドの上でコートにくるまっていた。あの時スコールから渡されたラシャのコートだ。彼女はゆっくりと布地から血痕にかけて鼻を沿わせ、その芳香を舌で転がすかのごとくじっくりと嗅いだ。

「もう、貴方の匂いは消えてしまった。これで名実ともに貴方は死んだと思っていたが、貴方は生き延びていた。やはり貴方が死ぬはずがなかったんだ……」

 マドカはコートを脱ぎ、その背中に咲いて久しい黒い華に下を這わせ、じっくりと愛撫した。鉄臭さは既に抜けて久しく、若干の苦味と埃臭さが脳に伝わるが、彼女には些細な問題ですら無かった。

「ようやく貴方にこれを返せる。そして、これを着た時……貴方は代わりに染み付いた私の匂いを嗅いでくれるだろうか?……ラシャ、必ず逢いに行くから、ね」

[8]前話 [9] 最初 [1]後書き [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2025 肥前のポチ