番外編:殺人鬼の昔話1 下
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、声も出ない。死んでないだけの存在ってやつだね。私が無視してきた有象無象どころの騒ぎじゃないねえ。本当に『ただの肉』になっちゃったね」
「…」
この唐突に現れた無礼千万の存在は、声色で少女だということが分かった。恐ろしいことに少女は唐突に宙返りを披露すると、ラシャの枕元に着地した。ベッドが激しく軋み、器具の幾つかが外れ、警告音が鳴る。
「おっと!」
少女はパチンと指を鳴らした。同時に警告音は沈黙し、「表向き」は正常な運転を表示していた。
「危ない危ない、今人が来るといろいろ面倒だからねー。これから雲隠れしなきゃいけないし……それぇ!ドッカーン!!」
少女は嘲笑を浮かべるとラシャに近づき、彼の胸元に無造作に手を突っ込んだ。最早貫手と称しても遜色無い乱暴な手に、ラシャの身体から血が噴き出た。同時に激しい痛みがラシャを襲う。
悶絶しようにも四肢は微動だにせず、肝心の医療器具の警報装置は眼前の少女に隷属し、偽りのグリーン・ランプを灯し続けている。
「にゅふふふ、使い物にならなくなってる君の心臓の代わりにあげるのは束さんも見限った『出来損ない』さ。どうしようもない『じゃじゃ馬』で『暴れん坊』なんだ。こうしている今でもきっと『殺したくて壊したくてたまらない』だろうね〜。いい厄介払いだけどさ。まぁこの束さんからちーちゃんを奪ったお前には丁度いいシロモノかもね。ねえどんな気持ち?日頃から口酸っぱく言ってたよね?『暴力を垂れ流す存在になるな』って。自分がそれになっちゃってるけどさぁ、どんな気持ちかなかなかな?」
チェシャ猫のように嗤う少女は余程感極まっているのか、まくし立てるだけまくし立てると病室を独楽のようにくるくると回り出す。斯様な児戯の最中にもラシャの肉体は刻一刻と死に近づいていた。だが、彼が迎えたのは苦痛による意識の喪失でもなく、死と言う名の無明の彼方でもなかった。
綿が水を吸い込むように自らの中を侵していくものがあった。それは斜面の水流のように早く彼の全身を舐めまわし、白布に垂らされた血滴の様に穢らわしきものであった。
やがて、「それ」が彼の身体の隅々まで行き渡るのに十分な時間が経った。ラシャの身体は彼の意識の管理下から外れ、難なくベッドから起きると、少女に向き合った。
少女の格好は珍妙の一言に尽きる有様で、エプロンドレスにメカニカルなうさぎ耳の飾りで着飾っていた。時代錯誤な格好は不思議の国のアリスをどことなく髣髴とさせる。
「やっぱり無反応だとつまんないね。まあ良いもん、束さんは傷心のちーちゃんといっくんと箒ちゃんとで変わっちゃう世界で毎日面白おかしく楽しく暮らすもんね!!だから…」
束と名乗った少女はラシャの首根っこを鷲掴みにすると、体格差なぞどこ吹く風とい
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