番外編:殺人鬼の昔話1 中
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にサンドイッチを盛り付けていく。ハムやレタス、シーチキンやチーズといった色とりどりの具材の鮮やかさに、少女の口腔は唾液で満ち溢れ、慌てて嚥下した瞬間には腹から雷鳴のような轟音が響いた。
「さあ食え、丸3日も寝てたんだ、腹減ってるだろう?」
赤面する少女の事など視界に映らないのか、男は自分の分のサンドイッチを手元に手繰り寄せると、新聞を片手に咀嚼し始めた。
少女は意を決してサンドイッチに食らいついた。今まで味わったことのない味覚の反応に、彼女は我を忘れた。空腹であることも手伝って、あっという間にサンドイッチを平らげた少女は、紅茶を啜りながら男の様子を注意深く観察していた。
「お前は何者だ?」
唐突に男が口を開き、少女は紅茶を吹き出しかけてむせてしまう。ヒビの入った骨が咳に呼応して筆舌に尽くしがたい痛みを少女にもたらす。少女が落ち着くのを待って、男は再度口を開いた。
「もう一度問う、お前は何者だ?」
「人に名乗るなら、まずは、自分から、名乗るべきだろう」
少女はどうにか反論をした。意外な答えに男は数拍押し黙った後、微笑みとともに口を開いた。
「ラグザ。場末のバーで日雇いをしている」
眉一つ動かさず青年ことラシャは偽名を名乗った。
「私はマドカ。そう名乗っている」
「そうか、フルネームじゃないが良しとしよう」
ラシャはサンドイッチを平らげるとコーヒーを啜り始めた。明らかに敵意がないのを確認すると、マドカは安堵した。
「何故私を助けた?」
マドカは1番聞きたかったことを率直に尋ねた。この男は自らを助け出す事においてメリットは何もなかった。あろうことか手当までして保護してくれた理由を、どうやっても見つけることが出来なかったのだ。
ラシャはマドカの心中などお構いなしに、コーヒーをゆっくりと飲み干すと、暫くの逡巡の末、口を開いた。
「お前とは何処かで遭ったような気がするからだ」
余りにも茫漠とした理由に、マドカは唖然とした。数秒呼吸も出来ぬほどの肩透かしであった。ラシャはカップを新しいコーヒーで満たすと一気に飲み干した。
「……俺は過去の記憶が無い。この通りモンゴロイドの顔をしているが、どんな人間か分からんのだ。国なき民として今もこうして放浪している。このアパートも仮住まいだ」
「ちょっと待て、色々突っ込みどころがあるぞ。住所や金品、社会的地位ははどうしてるんだ?」
マドカのツッコミに、初めてラシャは笑みを浮かべた。その穏やかな声色からは想像もつかない凄惨で獰猛な笑みはマドカの緊張の糸を張らせるには十分だった。
「それは君は身を以って理解できているんじゃないかな?」
マドカの全身から血の気が逃げ水のように引いていく。体
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