番外編:殺人鬼の昔話1 上
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ほどであった。
だが、これは事実である。この青年は「人を殺さずには居れない」性を植え付けられてしまった男なのだ。最早彼にとって殺人は睡眠や食事のように生活のサイクルに組み込まねばならないものだった。殺らねば渇く。渇けば狂い、死に至る。青年は疼き続ける殺人衝動を抱えて日陰に潜む日々を送っているのだ。青年の名前は編田羅赦。彼は一介の畜生に堕した男である。何時からこの様な生活を送っているのか、それは本人にも解らない。
ラシャは気付いた時から人を殺す生活を当たり前の様に送っていた。自らの記憶は初めて殺したと思われる死体とともに始まったと言っても過言ではない。親兄弟や生まれ故郷といったものは全て記憶から抜け落ち、「今」の記憶しか存在しなかった。
そして定期的に襲いかかってくる飢餓に似た苦痛。幾ら食しても、潤しても満たされなかったそれは、アジアの一都市で無我夢中で藻掻いていた最中、絡んできたチンピラを返り討ちにする形で殺した際に満たされた。そして、司法の目から逃れるべくあらゆる国を転々としつつどうしようもない飢えを満たすべく今日も殺すのだ。罪悪感はとうの昔に擦り切れ果てている。
雨中の殺人から数日後。ラシャは久しぶりの休日を満喫していた。日の出前に目を覚まし、軽いストレッチとブラックコーヒーで意識を完全に覚醒させると、まだ夜闇に包まれた表街道を、鼻歌を唄いながら歩き始めた。冬を目前に控えたこの街には木枯らしが吹き抜け、四季の変わり目を否応なく知らせてくる。
「今日はカフェで一日中過ごそうかなあ」
胸に巣食う「それ」を案じつつ、ラシャは数少ない楽しみである散歩をしむ。東の空が白み始め、朝日が顔を出す瞬間を密かに待ちわびていると、眼前に少女を痛めつけている二人の男が居た。同時に抑えられていたはずの黒い衝動が鎌首をもたげる。ラシャは折角の休日を最悪の形で潰されてしまったのだ。
「おい」
ラシャは自身、思いもよらぬほどの冷えきった声が出た。対する男達は少女への暴行を取りやめてラシャを睨みつけた。明らかに堅気ではない雰囲気を纏っており、場末のガードマンやPMCの印象を与えた。
「……」
男の一人がナイフを抜く。刃先は丁寧に研がれ、中程から根本にかけては骨を断てるように敢えて粗く研がれている。機能的に致命傷を与えられるように手入れがされた殺意の象徴を前にしても、ラシャは一歩も退かないどころか挑発するように更に一歩を踏み出した。
当然である。既に二人はラシャにとって狩られる獲物としか認識されていないのだ。
「フン、馬鹿野郎が」
ラシャの行動に男の一人が呆れて、彼の胸にナイフを突き立てるべくナイフを構えてラシャに突っ込んだ。だが、ラシャは腕押しされた暖簾のように身を翻すと、男の後頭部をひっぱたいて転倒さ
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