第一章
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。また言うのだった。
「確かに奇麗だけれど」
「ほら、あそこ見ろ」
「あの山の方ね」
ザルツブルグは周りに山があった。そして市街のところにもだ。
緑の山がある。そこに中世の趣を感じさせる白い見事な城があった。宮殿にさえ見える。
両親は由実にその城を見せながらだ。こう言うのだった・
「あれがホーエンザルツブルグ城だぞ」
「奇麗でしょ」
「確かにね。奇麗なことは奇麗ね」
このことはだ。由実も認めた。その通りだとだ。
だが、やはりだった。由実はこう言うのだった。
「けれど。私はお城っていったら」
「大阪城か?」
「あのお城だっていうのね」
「大阪城がお城なのよ」
例え憎き徳川家が再建した、しかも昭和になって建てられた三代目の近代的な天守閣であってもだ。大阪人にとっては大阪城は太閤様が建てた大阪の象徴だ。
その大阪城とホーエンザルツブルグ城とやらを比較してだ。由実は言うのだった。
「確かにね。奇麗よね」
「だろ?それでもか」
「大阪城の方がいいっていうのね」
「不安なのよ。どうしても」
不安に満ちているからだ。だからだった。
由実は今は何を見ても楽しめなかった。ザルツブルグの見事な街並みにその間を流れる青い清らかな川を見ても街を優しく囲む緑の山々を見てもだ。ましてやその壮麗な白いホーエンザルツブルグ城、緑の山の上に存在しているその城を見てもだ。
とにかく楽しめなかった。街からモーツァルトの曲を聴いても。
どうしても楽しめずだ。両親に言うのだった。
「だから私大丈夫かしら」
「そんなに不安か?」
「この街で生きていけるかどうか」
「だって。私ドイツ語も喋れないし」
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