第十六話 そして疾風怒濤の日々
[3/4]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初
手紙を覗き込みながら、自分も真鍮の拍車の騎士に叙任されることになったホルストが喜色もあらわに俺の肩を叩いた。一時はあからさまな敵意を向けていたことなどすっかり忘れたかのような親友ぶりである。だが、そのことを指摘してやりこめる気力は湧いてこなかった。
「ああ、いい友達に恵まれたからな」
それだけの報酬をもらっても引き合わないほど、疲労は募っていたし、報酬には次の要請、というか命令の山が付属していたからである。
『みな、お家が大事なのです』
俺たちが自分の訓練、勉強をほったらかして駆け回っている間に、皇帝陛下のぼんくら貴族への怒りはますます募っていた。
『心臓を射抜く太矢の勅令』『白薔薇の勅令』と呼ばれる『黒薔薇の勅令』の強化版、爵位剥奪に原因となった当人と当主の死刑のおまけがついてくる勅令が発せられ、中堅の貴族が何人か死刑になった。
一番爵位が高いところでニュルンベルク星系の領主ニュルンベルク伯爵が警備隊司令官を務める嫡男の、兵士を電気鞭で殴って憂さ晴らしをする悪癖が原因で正規軍をも巻き込む大規模な兵士の反乱が起こった責任を問われて嫡男共々死刑になると、平民も驚き権門の子弟さえもが恐怖におののいた。
『黒薔薇の勅令』もますます頻発され、「アレクサンデルの股肱として頼むに足りぬ」「将来閣僚たるには力不足」「領邦を預けるに足らぬ」と逼塞を命じられたり降格された貴族はおよそ一カ月の間に両手の指が二十本ずつあっても数え切れない数になった。
格下げそのものも格下げに付随する名誉の剥奪も前より過激化した。
侯爵から男爵に下げられ、領地を減らされたばかりか家祖の武勲を語ることも肖像画を飾ることも禁じられた家がある。
「叛徒にも稀なる愚か者」「農奴の服が似合いの」だとかの不名誉極まる二つ名が公文書に乗せられた者がいる。
ばか息子、わがまま娘を放置すると最終的には命の危険がある、そうでなくとも死ぬほど恥ずかしい目に遭わされ面目丸潰れになるとなれば、敵対する一門に頭を下げるぐらい何でもなくなるのだろう。
俺の部屋の机の上には友好関係にあるブラウンシュバイク一門やファルストロング一門の貴族だけではなく、リッテンハイム一門などの敵対関係にある貴族からのもある不出来な息子、娘を何とかしてくれとの依頼が手紙を書くために紙を広げる隙間もないほど山をなし、うず高く積み上げられていた。
「……これからもよろしく頼むぜ、親友」
「任せとけって!」
「またしばらく、綱渡りが続くね」
皮肉と何とも言えない思いを込めた言葉にそれぞれ、らしい反応を返した二人に俺は乾いた笑いを投げかけると、手紙の山から一番上にある一枚を取り上げた。
「エッカート子爵か。難物だね」
封蝋の紋章を見て取ったブルーノの心配げな言葉に、俺はあえて答えなかった
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ