巻ノ八十三 仕置その九
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「赤備えの中でな」
「そうですな」
酒井が言って来た。
「どうも我等は武田家やその家臣とは」
「相性が悪いのう」
「当家だけで勝ったことはありませぬ」
「武田家にも家臣であった真田家にもな」
「敗れてばかりです」
「それも散々にじゃ」
家康もこのことは苦い顔で述べた。
「やられたな」
「はい、常に」
「だからじゃ」
それ故にというのだ。
「あの親子もじゃ」
「高野山に押し込めて」
「世には出さぬ」
こう言うのだった。
「それでいいであろう」
「それがしもそう思いまする」
「さて、仕置が終わってな」
「その後は」
「いよいよじゃ」
「将軍になられますか」
「その時が来た」
遂にという言葉だった。
「ではよいな」
「はい、それでは」
「都で帝にお会いしてな」
征夷大将軍、それになるというのだ。
「官位も頂くことになる」
「その官位は」
「右大臣じゃ」
家康は笑ってだ、酒井に答えた。
「そうなる」
「何と、右大臣ですか」
「そうじゃ、これまでは内大臣だったがな」
だから内府と呼ばれていたのだ、これがそのまま家康の仇名の様にさえなっていたのだ。もっともこれは他に官位のある者も同じだ。
「織田殿と同じじゃ」
「あの方も最後は右大臣でしたし」
「懐かしいわ、あの方のことも」
家康は信長、幼い頃から知っている者として話した。
「竹千代のことは残念だったのしても」
「それでもですか」
「痛快な方であった」
傍で見ていてだ、家康は信長を常にそうした目で見ていたのだ。
「その織田殿と同じになったか」
「官位において」
「しかも将軍にもなる」
「天下人になられますか」
「わしがな」
「それでですが」
今度は柳生が家康に言ってきた。
「豊臣家のことは」
「そのことか」
「どうされますか」
「婚姻の話は進める」
自身の孫千と秀吉の遺児秀頼とのそれはだ。既に秀頼という名になっている。
「そのうえでな」
「はい、大坂からですな」
「出てもらう、そして一国を治めてもらおう」
「大坂以外の場所で」
「摂津、河内、和泉は徳川の領地とする」
豊臣家の領地であるこの三国はというのだ。
「そのうえでじゃ」
「国持ち大名としてですな」
「いてもらう」
「それがいいですな」
「それで茶々殿にはまたな」
「ご婚姻のことをですか」
「お話しよう」
家康は自ら茶々に婚姻の話を申し込んでいるが再びというのだ。
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