第4章:日常と非日常
第96話「弓」
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。
...四射三中...中学生の、それの一年生でこの結果は中々だろう。
先輩も、別に腕前が低い訳じゃない。むしろ高い方ではある。
まぁ、心が乱れたから中るものも中らなかったんだけどね。
「お疲れ、アリシアちゃん。」
「ふぅ...。ブイ!」
労いの言葉を言ってくれた葵に返すように、私はVサインをする。
もちろん、弓道としての礼儀を忘れずに、退場での“体配”という動作も欠かせてない。
「お疲れ、アリシア。」
「...上出来よ。」
「えへへー、頑張った甲斐があったよ。」
優輝も椿も、労いの言葉を掛けてくれて、自然と私の頬は緩んでしまう。
そんな和やかな雰囲気に対し、先輩の方は信じられないと言った風だった。
「嘘...嘘よ!こんなの、マグレに決まってるわ!!」
「そうよ!こんなのありえないわ!」
「....はぁ。」
“やり直せ”とか、“卑怯だ”とか口々に私に文句を言う。
そんな先輩たちに対し、椿が溜め息を吐いて立ち上がる。
「アリシア、一番強い弓を借りるわよ。」
そういって、椿は誰も使ってない弓を手に取り、懐から弦を取り出して張る。
椿が手に取った弓は、前任の顧問の先生が使っていた弓で、18sと他の生徒や今の顧問の先生には少々引きづらい弓だ。
「...こんなものね。」
「何を...。」
“弓把”と呼ばれる、弓と弦の間の距離を一度の調整で整え、戻ってきた私の矢を二本借りて的前に立つ。
そして、あの時私に見せた射形を、披露してみせた。
「.....私がアリシアに弓を教えたわ。アリシアが貴女に勝ったのは偶然じゃなく、必然よ。アリシアはこの十日間、貴女を見返すために必死に努力したわ。その努力に、文句など言わせないわ。」
「っ.....。」
殺気とも取れそうな、椿の気迫が伝わってくる。
椿は、私に弓を教える際にしっかりと責任を持っていた。
だからこそ、私の努力を誰よりも理解していたし、認めてくれていたんだ。
それで、納得させるために、あの射形を見せたのだろう。
「全く...。ただの嫉妬で人を貶すんじゃないわよ。...あ、勝手に使って悪かったわね。」
「あ、うん。誰も使ってなかったから、壊さない限り別にいいんだけど...。」
見た目はどんなに高く見ても高校生に見えるかどうかなのに、先程の椿はそれを感じさせない程の雰囲気を出していた。
だからこそ、先輩たちも認めざるを得ないと、肩を落としていた。
「...あー、椿?なんか、滅茶苦茶見られてるぞ?」
「えっ...?あ....。」
他の部員の皆が、椿の射形を見ていたらしく、椿は凄く注目されていた。
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