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ハーモニカおじさん
第一章
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また見上げてです。梓ちゃんはおじさんに答えました。
「もうね。お部屋に一杯あるよ」
「だったらいいじゃない。お人形一杯持ってるから」
「真樹ちゃんのお人形貸してって言ったら駄目だったのね」
「そうだよ。人のものは欲しがったら駄目なんだよ」
「そうだったの」
「そうだよ。それじゃあね」
 ここまで話してです。おじさんは梓ちゃんにです。
 自分の口にハーモニカを近付けながらです。こう言いました。
「優しい気持ちになってまた考えるといいよ」
「ハーモニカの音聴いて?」
「そう。そうしてね」
 それでだというのです。
「優しい気持ちになってもう一度考えてみて」
「うん、それじゃあね」
 梓ちゃんも顔を見上げさせておじさんのその顔を見て答えます。そうしてでした。
 おじさんが吹くそのハーモニカの音を聴きます。その音を聴いているうちに。
 梓ちゃんは本当に優しい心になってきました。あの時真樹ちゃんに我儘言うんじゃなかった、自分のお人形があるからよかったんだと。そう考えるようになりました。
 その梓ちゃんの前にです。向こう側の道から。
 真樹ちゃんが来ました。真樹ちゃんはおじさんのところに来てです。梓ちゃんの顔を見て少し驚いた顔になって言ってきました。
「梓ちゃん、どうして?」
「真樹ちゃんも。どうして来たの?」
「ハーモニカの音を聴いてなのよ」
 それでここに来たというのです。
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