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殺人鬼inIS学園
第二話:戦乙女と殺人鬼
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 彼を本格的に意識したのは両親に捨てられた時だった。幼い一夏を抱えて街中を裸足で駆けまわり、精魂尽き果て心中の一単語が脳内をよぎりかけた際、彼は手を差し伸べてくれたのだ。

「大丈夫か?」

「……そう見えるか?」

「いいや、だから訊いている」

「……父さんと母さんが消えた。親戚は信用出来ない……どうしたら……」

「『君も』か……そうかそうか」

「君も?」

「織斑さん、俺も棄てられ者だ。何年も前からな」

「……そうだったのか……」

「アテ、無いんだろ?良かったら俺の家に来い。メシくらい奢るぜ」

「……」

「弟君も心配している。泣き疲れてるが、君のおかげで正気を保っているようなものだ。君には辛いが、ここで踏ん張らないと弟君共々共倒れだ。さあ、来るんだ」

 この時ラシャの手を取ったことを千冬は一生忘れないだろう。彼女は生まれて初めて他者に頼ることを知ったのだから。
 ラシャは何でも出来る人間だった。家事全般は勿論の事、学業の傍らに様々なアルバイトに精を出していた。食堂の皿洗いを始めとして、中学受験生の家庭教師。ケーキ屋の販売員から土方の日雇い。路上で絵描きをしていた日もあれば、当時千冬が掃除のバイトをしていたバーのピアノでバッハを弾いていた事もあった。
 それだけではない、暇さえあれば一夏に家事や勉学を教えることもあった。お陰で最愛の弟である一夏の家事の腕前はラシャ以上のモノになり、学校のテストも好成績を叩き出せるようになった。
 そして何より千冬を喜ばせたのは、捨てられて荒んでいた心を解きほぐし、笑顔を見せてくれたことだった。ラシャと同居を始めた頃は、まるで涙を流す人形のように無反応だった。時折発露する感情も、捨てられた事実に対するやり場のない悲しみから来る慟哭のみであった。
 そんな彼をラシャは放っておけなかったのだろう。いつの間にか心を解きほぐし。彼の笑顔を、本来の感情を引き出すことに成功していた。いつの日か二人は三人になり、まるで最初からそこにいたかのような生活となっていった。『白騎士事件』が起こるまでは。

 最初は何かの間違いだと千冬は思った。帰宅してみると、血まみれで倒れている家族がそこに居た。一夏とラシャだ。声にならない悲鳴を上げて二人を抱き起こした。瞬間、ラシャの胸から鮮血が迸った。千冬の記憶はそこから大きく途切れることになる。
 どうやって病院に運んだのかは解らない。気が付くと血まみれの自分と、泣きじゃくる一夏がそこにいて、手術室のランプが涙で霞んだ視界の隅に朧気に見えた。医師から聞かされた状態もよく覚えていない。とにかく、彼はそれから一週間後、面会謝絶状態のICUから脱走し、行方をくらませてしまったのだ。
 そして約十年の月日を経て、彼は千冬の前に姿を表し
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