第一話:用務員は殺人鬼
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はよう編田君」
「おはようございます!編田さん」
織斑千冬と山田真耶の二人だ。羅赦の姿を見かけるなり、真耶の表情は明るくなる。
「これから授業ですか?」
「まあ、そうだな」
「そうなんですよ〜せんぱ…織斑先生は実技監督で、私は座学です!」
自信満々に胸を張る真耶。幼気な外見に反して大いに成長した双丘が元気よく弾むが、羅赦は顔色一つ変えずに笑顔を返す。純真ささえ香る表情に真耶は赤面し、恥ずかしそうに書類で顔を隠してしまった。同時に、千冬がわざとらしく咳をして空気を変えた。
「あまり後輩をからかわないでくれ」
「私は別にからかったつもりではないんですが…ああ、山田先生。煙出てます煙…」
「ふえぇ…」
千冬はどうにか真耶を平時の調子を取り戻させると授業へと急がせた。真耶は名残惜しそうに何度も羅赦に対して振り返りながら教室へと向かっていった。
「さて、それでは私は…」
「ラシャ」
帽子を目深にかぶり直した羅赦はそそくさと倉庫へ向かおうとしたが、千冬に再度呼び止められた。否、止まらずには居られなかった。その呼び方ははるか昔、彼女がまだ無力だった時によく呼ばれた名前だったから。
「なぁに?千冬ちゃん」
「また、いなくなるなよ?」
その声色は、在りし日の無力でか弱く、愛しい少女の姿を羅赦の瞼の裏に映しだした。
「もう何処にも行かないよ、約束する」
羅赦は振り返らず、軽く手を挙げて応えた。振り向く訳にはいかない。意地でも、何としてでも。今の自分は彼女に見せられる顔をしていない。今の自分の顔は、きっととても猟奇的で加虐的な表情をしているから。
胸の何かが彼の表情を読み取り、大きく鼓動を一拍打った。
彼の名前は編田羅赦。これは壊れて殺人鬼に堕した一介の畜生の物語である。
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