第一話:用務員は殺人鬼
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まで女性で統一されていた。用務員や一部の管理職には男性職員が採用されているものの、全員ある程度年配の職員であり、特に色恋沙汰に目ざとい方々の間で話題に上るほどの存在感は無かった。
だが、今年は違った。唐突に用務員として一人の男性が採用されてきたのだ。しかも年齢は20代後半の青年と、生徒や教職員が密かに求めていた若い人材である。それどころか、この若き用務員は学園長から直々のオファーを受けて来たのである。
「学園長の娘の婚約者では?」
「どうせ、金持ちの道楽者が女目当てで入ったに決まってる。これだから男は…」
「新しい警備員の教導官じゃない?」
「先生たちを慰安するためだったり……?」
根も葉もない噂が学園を満たしたが、噂の渦中にある当の本人はそ知らぬ顔である。今日も今日とて用務員の制帽を目深に被り、上司である轡木用務員の補佐や簡易警備、簡単な備品の修理並びに清掃行為等に勤しんでいるのである。
「千冬ちゃん、先月言ってた週末の飲み会の件なんだけど、IS委員会への定期報告が前倒しになったから出られなくなった」
「何だと!?」
先程まで、ほほ笑みに近い表情を浮かべていた千冬の顔は瞬時に般若と化した。
「な、何故だ!!どうしてお前はこうも飲み会を蹴るんだ!?」
「嫌だなぁ、先月の時は参加したじゃないか」
「私が参加してない飲み会など知るものか!!」
「あれ?ちふ…織斑先生参加しませんでしたっけ?いやぁ、あのときは部活棟監督の榊原先生と数学のエドワース先生にしこたま飲まされたんでそれどころじゃなかったなぁ」
段々と千冬の瞳からハイライトが無くなっていく。その手は関節が白く見えるほど握りしめられ、まるで目に見えない抜身を握っているかのような迫力があった。
「すまん、私はどうやら殺らねばならんことが出来てしまったようだ」
「織斑先生が危惧するようなことは無かったですよ?」
男は落ち着き払った様子でフォローを入れる。まるで彼女の反応を見て愉しんでいるかのようだ。
「信用できんな」
「潰される前に潰しましたから。よっぽどお酒に自信があったんですね」
あっけからんと応える男に対して、千冬の瞳は疑わしげに細められる。
「写真の一つでも撮っておけばよかったですかね?」
その視線を味わうように男は告げる。並みの人間であれば裸足で逃げ出しかねない刃の如く鋭い千冬の視線に彼は平然とその身を晒しつつ、刃紋のようなその瞳を見つめ返していた。
一瞬、剣呑な空気が場を満たす。そして、千冬は目を逸らした。
「まあ、そこまで言うなら信じるさ。ところで、急に敬語になった理由を……」
「あれです」
遠回しにやり込められたことに拗ねたのか、話題
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