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自然地理ドラゴン
二章 追いつかない進化 - 飽食の町マーシア -
第23話 失うこと
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「あなたは自分の足を失った。それはあなたにとって、たしかに不幸なことだったのでしょう。
 しかしこの世界には、家族を、友人を、そして世話になった町の人たちを……周りのすべてを失った人間だっています。もし自分の足を犠牲にするだけで誰かが救えたなら、どんなに嬉しかったか――そう思う人間だっているのです。
 自分が足を失くしたから、他の人間も失くせ? 私から見れば、あなたは自分のことしか考えていない大バカ者です。今ここで黒焦げにして差し上げてもいいくらいだ」

 ――この人は、過去に何かあったのだろうか。
 急に尋常ならざる様子になったアランを見て、シドウはそう思った。

 当然ではあるが、シドウは足を失くしたことはない。なので、町長の苦しみというのがどの程度なのかを量ることができない。
 町長のしていることが許されないということはわかるが、自分に町長の気持ちを安易に否定する資格はないと思っていた。

 堂々と町長の考えを否定できるのは、町長の足喪失を上回る不幸を経験した人物のみ。あの赤毛の青年は、そうなのではないか――。

 あらためて、シドウは町長を見た。
 残念だが、アランの説教も響いているようには見えない。

(さか)しきことを」

 町長はまた眉間の皺を一層濃くし、眼を鋭く光らせた。

「言っておくが、私はここで捕まる気など更々ない」

 町長が背後の人物をチラリと見る。
 その背後の人物は、小型のオカリナのような笛を取り出すと、それを一吹きした。

 ガチャガチャという音が、背後にある家の方向から聞こえてくる。
 その音から、シドウは「もしや」と思ったが、やはり予想を裏切らないものが現れてしまった。

「……!」
「アンデッド、ですか……」
「え? どういうこと?」

 鎧や兜、盾を身に着けた動く白骨が、十体以上。

「動きが軽快そうですし、防具を使いこなしています。スケルトンファイターに区分されそうな上位種、ですね。シドウくん、ティアさん」

「はい、そのようですね」
「ええ? なんで、ここに出るの?」

 後ろにいる自警団、冒険者たちにも、驚きと恐怖によるざわつきが起こった。
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