二章 追いつかない進化 - 飽食の町マーシア -
第23話 失うこと
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いますよね? ですと、いつもいろいろな方に生活の助けをしてもらっていると思います。そうなると、普段から他人の優しさに触れているわけですから、より他人にも優しくなれると思うんです。だから、こんなことをする動機ってないはずなので……。何か重い事情があったなら、それをお聞きしたいんです」
町長は一瞬だけ「ほう」と言って口をすぼめると、下を向いた。
そして…………
笑い出した。
徐々に上を向きながら、大きく、そしておぞましく笑った。
静かな裏庭に、不気味に響く。
「町長さん?」
「足だ……その足なんだよ、シドウくん」
「え?」
「私は昔、冒険者だった」
町長の表情には歪んだ笑みが浮かんだままだったが、目は少し遠くを見るように細まった。
「大魔王が討伐されて町が開放された当時は、私はまだ十代だった。政治家になる気などはなかったが、町にいる人間の中では占領以前の魔王軍との戦いで一番功があったから、皆に推挙される形で町長となったのだ」
町長は続ける。
「町政は順調だった。だが町の解放後は魔王軍の搾取がなくなった影響で、大量の農産物や湖産物が余るようになった。その結果、町人が肥満だらけになったというのは知ってのとおりだ。私も例に漏れず太ってしまった」
「……」
「そして数年経ってから異変は起きた。皆やたらと小便の量が多くなり、やたらと喉が渇くようになっていった。さらにはケガをすると治りにくくなる症状が出始め、酷い者は手足が壊死し、切断に追い込まれていった。回復魔法も効かない、そして薬も効かない。皆その症状の正体がわからなかった。
そこで私は町長として、『肥満が多いことと何か関係があるのではないか』と、聖堂の薬師に対し調査を依頼した。もちろん私はその道の知識などはない。ただのカンだった。結果的には正解だったのだがな」
シドウは驚いた。カンであったとはいえ、この町長は奇病の原因について、自分と同じ推測に至っていたのだ。
そして、今の町長の言い方から、その推測はどうやら正しかったようだ。
「しかし当時の薬師の連中は、町に対して『太っていても健康面の問題はない』という調査結果を出してきた。それどころか『太っていることは豊かさの象徴として好ましい』とすら言っていた。
当然、専門家の見解であるからそれを尊重することになる。結局、奇妙な症状の原因は不明のまま、いたずらに年月が流れ、私も些細なケガをきっかけに両足を失うことになった」
「……」
「それが、去年……!」
町長の語気が急に強くなった。
「薬師の連中が『新しいことがわかった』と、嬉々として研究結果を持ってきた。そこには『現在流行している奇病の原因はどうやら肥満が原因らしい』と書かれていた!」
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