第二章
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後攻のドイツの選手はクラウスだ。彼を見てドイツ国民は言った。
「大丈夫だ、クラウスならな」
「クラウスならやってくれる」
「ここでシュートを決めてくれる」
「ドイツを優勝させてくれる」
観客席からもテレビからもネットでもだった。
彼等は信じていた。期待していた。
そして全てを託していた。それで言うのだった。
「頼むぞ」
「クラウス、絶対にな」
「決めてくれよ」
「ここで決めれば優勝するからな」
「だからいいな」
「ここで」
シュートを成功させて欲しいとだ。彼等はクラウスに全てを託していた。そのクラウスがボールの前に来た。
その彼にだ。観客席、ドイツ国民から凄まじい声援が来た。
「クラウス、頼む!」
「頑張れ!」
「決めろ!決めてくれ!」
「絶対にな!」
そしてだ。選手達もだった。彼等は喋らないが。
期待の目でクラウスを見ていた。監督もコーチもだった。
そのうえで注目していた。彼等も全てをクラウスに託していた。
その彼等の期待も、ドイツ中の期待を背負っていた。その彼の顔は。
岩の様に深刻なものになっていた。その彼がだ。
前に出る。ボールを蹴らんと足を繰り出す。しかしだ。
一瞬である筈のその動きが永遠の様に感じられた。ドイツ国民もそうだったが彼は尚更だった。足の動きが誰よりも長く感じられる。
若しも外したら、シュートを失敗したら、足を繰り出す中でそう考えてしまう。その迷いにも似た感情を抱いたままで。
彼はシュートを繰り出した。矢となって放たれたボールは一直線にゴールの右端に向かう。
キーパーはゴールの中央にいた。その彼はボールに向かって懸命に飛ぶ。
何とかボールを止めようとする。しかしそのボールは。
がくんと下に落ちてゴールに入った。そうしてだった。
クラウスはゴールを決めた。ボールに変化を加えさせてそれが決め手になったのだ。
シュートが決まったのを見たドイツ国民は一瞬沈黙した。その沈黙は一瞬で。
すぐに爆発的な歓声になった。彼等は口々に叫んだ。
「優勝だ!やったぞ!」
「ヘアリッヒクラウス!」
ドイツ語で叫ぶ。
「クラウスがドイツを優勝させてくれた!」
「今クラウスが決めたんだ!」
「やった!やったぞ!」
「やってくれた!」
「万歳!やっぱり最後はクラウスだ!」
「クラウスがやってくれたんだ!」
皆ドイツの優勝を祝いクラウスを褒め称える。それはイレブンも同じだった。
スタッフ達もシュートを決めた彼に駆け寄り抱きつく。皆歓喜の涙を流してさえいる。
しかしクラウスは、当の彼はその場にいるだけだった。まるでそこにはいないかの様に。
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