ケッコン協奏曲 〜赤城〜
4-β.キミだけのヤル気スイッチ
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言葉をかけてくれた。よかった。彼が戻ってきてくれたなら、この鎮守府のおかしなマリッジストリームも収束に向かうだろう。根拠はまったくないのだが、そんな気がする。
「提督! あなたの帰りを待って……」
『あらそお?……赤城……しらんけど……しらんけど……』
だがおかしい。少しずつ開かれていくドアの向こうにいる、提督の様子がおかしい。会話がまるで噛み合ってない。
「提督、どうされたのですか?」
『しらんけど……しらんけど……しらんけど……しらんけど……』
提督がおかしい。彼の何かがおかしい。私の予感が告げた。ヤバい。提督はおかしい。全力で逃げるべきだ……砲台子鬼さんの空打ちの頻度が上がる。冷静なはずの砲台子鬼さんの砲撃に焦りが感じられる。ぱすんぱすんという虚しい空打ちの音が、提督の『しらんけど』と共に執務室に虚しく鳴り響く。
ついにドアが全開になり、ドアの向こうにいた人物の姿が視界に入った。そしてその瞬間、私の心臓は、誰かに鷲掴みされたかのように、ぎゅうっと握りつぶされてしまった。私の戦意は、ちんちんに熱したフライパンの上の水滴のように小さく乾き、そしてまたたく間に消滅してしまった。
「くっくっくっ……」
『しらんけど……しらんけど……しらんけど……しらんけど……』
「てい……と……」
「あーおーばー……」
「……!?」
「みーちゃーいーまーしーたー!!」
「ひぃいいいッ!?」
提督ではなかった……ドアの向こう側にいたのは、最後の希望ではなく、絶望の悪夢。私達の最後の希望を装い、ドアの向こうで毒牙を磨き舌なめずりをして、私たちを罠にはめたのは、青葉さんだった。
「ふっふっふっ……赤城さん。恐縮ですー……」
「あ、青葉さん……な、なぜ……」
「お仕事で忙しいと聞いていましたが……そうでもないじゃないですかー」
「て、提督は……?」
「ふっふっふっ……これですか?」
私の当然の疑問を受けて、青葉さんは右手に持った妙な機械のスイッチを押した。その途端……
『知らんけど……しらんけど……赤城……しらんけど……』
提督のいつもの破棄のない声が……あの無責任な決まり文句が……その機械から繰り返し再生されていた。
しまった……迂闊だった……これはきっと、ICレコーダー……事前に録音しておいた提督の声をつなぎあわせて再生し、私の呼びかけに提督が返事しているように偽装していた……!?
「そ、それで提督のフリをしたんですか!?」
「恐縮です……くっくっくっ……」
なんという不覚ッ!! この一航戦、赤城……追い込まれた精神とハラヘリに惑わされ……まさかこのような単純なトラップにひっかかってしまうとは……ッ!?
「ほ、砲台子鬼さん……!!」
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