第三章
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「カクテルのお礼よ。いつもより美味しかったから」
「だからだっていうんだね」
「そう。それでどうかしら」
「わかったよ。それじゃあね」
「ええ。それなら」
こう話して。私はお金を置いていって店を出た。そこにだった。
背が高くすらりとして。収まりの悪い黒髪に彫のある浅黒い顔の若い男がいた。その彼がだ。
私に申し訳なさそうに。こう言ってきた。
「御免、さっきは」
「謝りに来たの?」
「そうだったらどうかな」
「いいわ。それじゃあね」
「それじゃあ?」
「謝るのならそれなりのものを見せてもらうわ」
微笑みを浮かべてみせて彼に返した。
「それでどうかしら」
「うん。じゃあ今夜はね」
「今夜は?」
「二人で朝まで踊ろう」
私の言葉に応えてこう言ってきた。
「それでどうかな」
「わかったわ。じゃあ朝まで二人ね」
「楽しく飲みながらね。そうする?」
「お酒はいいわ」
にこりと笑ったまま彼に答えた。
「もうバーで飲んでるから」
「だからいいんだ」
「そう。いいから」
こう彼に告げた。それならだった。
「サンバね。踊るのね」
「サンバ以外の踊りもだね」
「何でも踊るわ。それで朝までね」
「うん、じゃあ踊ろうか」
「付き合ってくれたら許してあげるわ」
これが私の出した条件だった。それを聞いて彼も。
笑顔でだ。こう言ってきた。
「それじゃあ。朝までずっとね」
「踊りましょう。折角のカーニバルだから」
こうしてだった。私は朝まで二人で踊って仲直りをした。その朝にだ。
二人でコーヒーとパンを、彼の部屋で食べながら話をした。
「昨日はよかったわね」
「うん、久し振りに二人で踊ったけれど」
「よかったわね。けれどね」
「けれど?」
「昨日で終わりじゃないわよね」
こうだ。微笑んで彼に尋ねた。ブラジルの強い日差しが入って来る朝の中で。
「まだこれからよね」
「来年も一緒にっていうんだね」
「来年も。それからも」
「これからもずっと」
「そう。二人で踊るわよね」
「うん、そうしよう」
彼も笑顔で私に応えてくれた。そうしてだった。
私達は二人で朝を過ごしながらこれからのことを誓い合った。そうしてだった。
ずっと恋人でいることも誓い合った。そうしてだ。二人で満ち足りた朝も過ごした。
ミ=アモーレ 完
2011・12・4
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