巻ノ八十二 川の仕掛けその十
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「お見事じゃ」
「そう言われますか」
「ではその水有り難く受け取ろう」
「そして飲まれてですか」
「末期の水としよう」
まさにそれにというのだ。
「是非な、そしてな」
「真田家のご次男にですな」
「伝えてくれるか」
「はい、最後の最後までですな」
「己の身を大事にされよとな」
「その様に」
「桂松の娘婿であった、それにな」
それに加えてというのだ。
「あの御仁は悪い御仁ではない」
「だからこそ」
「見事な方、必ず天下一の武士になられる」
幸村自身が目指す様にだ。
「それならばな」
「最後の最後まで」
「御身を大事にされよと」
「そしてですか」
「生きられて死なれよとな」
「わかり申した、では確かに」
「伝えてくれるか」
「お約束します」
「それでよい、もう思い残すことはない」
石田は満足した顔で言った。
「では行こう」
「水は持って来ますので」
「ではな」
石田は小西や安国寺恵瓊達と共に磔となった、そうして世を去った。そして彼が最後に話した武士はあえてだった。
上田に向かうことにした、だがその夜だ。
昌幸と幸村はまた星が落ちたのを見てだ、二人で話した。
「三つか」
「はい、治部殿とですな」
「小西殿、安国寺殿じゃ」
「左様ですな」
「後はな」
「はい、仕置ですな」
「そうなる」
こう幸村に言った。
「治部殿についた大名達のな」
「では我等は」
「間違いなく仕置の対象となる」
昌幸は言い切った。
「それも中納言殿はお怒りじゃ」
「だからですな」
「重いやもな」
その仕置がというのだ。
「切腹も出るやも知れぬ」
「切腹ですか」
「しかし本当にそうなると思うか」
「それはありませぬ」
幸村は昌幸の自身への問いに即座に答えた。
「内府殿は余計な血は好まれぬ方」
「そうであるな」
「首を切るにしても一度でされる方です」
「それは既に終わった」
「治部殿達のそれで」
「ではな」
「中納言殿も無体な方ではありませぬ」
律儀で父家康以上に穏健な人物として知られている、それと共に実は陰謀を好まぬ性質であるとも言われている。
「ですから不快に思われていますが」
「我等をな」
「命までは奪いませぬ」
「そうであるな」
「それに兄上がおられます」
袂を分かった筈のその兄信之がだ。
「父上の策通りに動かれれば」
「それでじゃ」
「我等は命だけはですな」
「助かる、命があればな」
「また何か出来ますな」
「そうなる、ただ御主はな」
幸村、彼自身にはこう言った。
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