縊鬼
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―――首吊り死体が出た。
そんな薄昏い話題が、大学構内に満ちていた。
このところ、めっきり話しかけてくる友人が減った俺は、講堂の机に突っ伏した姿勢のまま、そんな噂話に耳を傾けていた。
「…多いな、ここのところ」
「あの…いつだったか、久々に出て来たデブとかもなぁ」
ひだる神に憑かれて死んだ信田の話だ。…特別、仲が良かったわけじゃないが、あの記憶は今でも時折俺を苛む。奉が迎えに来たあの瞬間の、すっと心が冷える感じが忘れられない。
「今度の首吊り含めると、何人?」
「4人だよ。…多いな」
つまり、うちの大学の生徒が首吊り死体で発見された。そして本年度、学内での変死者数が4人に昇る…そういうことか。
奉は期末試験が終わるや否や、学校には寄付きもしない。
あんな薄情者でも、孤立を深めている今の俺には貴重なつるみ先だというのに。
今起きたような顔をして、ぐっと伸びをする。自分でも不思議だが、全然焦りが湧いてこない。奉と行動を共にしていると、こういう時期がしばしばあるのだ。遠ざけられるというか、様子を見られる時期が。こういう時はそっと距離を置き、俺自身は何一つ変えずに普通に過ごす。そのうち何事もなかったように、自然と人が戻ってくるのだ。
「結貴くん!」
……ほら。薄く目を開き、ん?と気怠く首を回した瞬間、俺は凍りついた。
「夜型人間は、こんなトコで睡眠を補ってるんだなぁ〜?」
小さくどよめく講堂の片隅で、玉群家のかわいい隠し玉が、リスのように大きな瞳で俺の顔を覗き込んでいた。
「私、絶っ対ここの大学には入らない」
縁ちゃんは小さく肩をすくめて呟いた。昼時を少し外して訪れた学食に、客はまばらに散っている程度だ。
「どうして」
「…学食がおいしくないんだもん」
そう呟いて、彼女はいたずらっぽく笑う。…どうも、カレーがぬるかったらしい。ぬるいカレーは旨くあるまい。
「そこはパートのおばちゃんによる。ちゃんとカレー温めて出してくれるおばちゃんもいるぞ。…5割の確率で」
「低いなぁ」
そう云いながらも、品よくカレーを掬って口に運ぶ。縁ちゃんは基本的に躾がよいのだ。
半刻前。講堂で不意に声を掛けられて凍りつく俺に、縁ちゃんはこう云った。
「エマさんと待ち合わせしてるの。ちょっと付き合って」
は?エマ?エマって誰?と声をあげかけ、ふと思い当たり口を噤んだ。縁ちゃんは『飛縁魔』を『日野エマ』だと思い込んでいる。飛縁魔のほうも、その名を気に入ったようで『エマさん』と呼ばせているそうだ。
「…こうやって、待ち合わせて遊びに行くことってよくあるのか」
「んん、お誘いはちょこちょこあったんだけどー、県大会近かったから忙しくて♪だから二人で遊ぶのは今日
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