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霊群の杜
縊鬼
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奴じゃ、吊るした後でもワンチャンあるじゃねぇか、と判断したからだろうよ。そう呟いて奉は豆大福を頬張った。



「…ほう、その木が元々、首吊りの木だったと。飛縁魔がそう云っていたのか」
鳥居が連なる石段をゆっくり降りながら、奉が呟いた。講義が残っているから…と帰りかけた静流さんに、帰るなら麓のコンビニでアンパン買って来いとか意味の分からない事を云う奉を引きずり出して、静流さんの見送りに付き合わせることにした。この駄神は本当に、ここ1週間程外出していなかったらしい。
「縊鬼に憑かれた者が、首吊りの木を選びがちなのはまぁ…あり得るかもしれないねぇ。何しろ、首を吊るという大事な用事があるのだから」
首吊り松ってのは昔から、絶妙な場所にあるからねぇ。人目に付かず、枝ぶりのいい…などと物騒な事を云いながら、奉が余った豆大福を齧る。…余ったというか、静流さんからせしめたというか。
「じゃあ、縊鬼はまだ消えてないんですか」
「かもねぇ…お前らを仕留め損なった分、次の奴を探して彷徨うだろうねぇ。で、お前らには、学生全員に目を光らせている暇などない。諦めな」
そんな…と目を泳がせた静流さんが、ふいに足を止めた。
「あ…あの子。この前来てた」
連なる鳥居の向こうから、水色のスカジャンを羽織った縁ちゃんが走って来た。いつも通りのショーパンと、ニーソックスを合わせている。…うん。やっぱりこの方が縁ちゃんらしい。めいっぱい手を振って駆けてくる縁ちゃんに軽く手を振り返した。

しかし静流ちゃんが軽く手を上げた瞬間、縁ちゃんはふいと目を反らして一言も発することなく、石段を駆け上って行った。

「……え?」
な、なに?機嫌悪いの?
「―――なんで私、嫌われるんでしょうか……」
しょんぼりと肩を落とす静流さんの横で、奉が軽く肩を震わせていた。
「くっくっく……参ったねぇ……」
なに笑ってんだこの男は。
「あちらを立てればこちらが立たず…かい。あぁ、参ったねぇ。くくくくく…あはははは」
「おい、何だよそれ」
「あはははは参った参った。面白いねぇ、儘ならないねぇ」


茫然と佇む俺たちを後目に、奉は笑い続けた。

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